第六十一話 図書館でその九
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その図書館の壁にある時計を見てそして言ったのである。
「あと九時間だね」
「もう少しね」
「時間的にはその筈だけれど」
「それでもよね」
「とてもね」
その沈痛な面持ちでの言葉だ。
「とても長く感じるよ」
「こうした時には」
「一分が永遠みたいな」
そこまでだというのだ。
「そんな感じだよ」
「一分がなの」
「うん、永遠みたいだよ」
こう言うのだ。
「本当にね」
「辛いわよね」
「逃げたいよ、正直言って」
そこまでだというのだ。
「逃げることも出来るけれど」
「それでもよね」
「僕が逃げても戦いは終わらないから」
「だからよね」
「うん、僕は逃げないよ」
その辛い心境の中で言った。
「絶対に」
「じゃあ戦いに参加して」
「帰って来るよ」
今の言葉には悲壮なものがあった。
「それで月曜からね」
「その次の日から?」
「剣道するよ」
今日の様にというのだ。
「そうするよ」
「帰って来てそうして」
「またここでもね」
学園の図書館でもだというのだ。
「本を読みたいね」
「普通の生活をしたいのね」
「日常のね。その日常ってね」
その平凡なことの話にもなる、その日常という誰もが普通にあると考るごく当たり前のこともだというのだ。
「実は簡単に壊れて」
「剣士としての戦いでも」
「うん、そして掛け替えのないものなんだね」
そのことを今理解したのである。
「そういうものなんだね」
「そうよね、上城君は剣士になってから」
「ずっと戦って迷ってきたから」
「日常の中にいてもね」
「剣士として戦っているから」
だからだというのだ。
「戦いと日常は正反対なものでね」
「死ぬか、生きるかだから」
「うん、日常はね」
それはだというのだ。
「とても素晴らしいものなんだね」
「皆普通に過ごしてて明日を考えられることが」
「若し死ねば明日はないよ」
言うまでもないことだがあえて言った彼だった。
「もうそれでね」
「そうよね、ないわよね」
「全くね」
そうだというのだ。
「剣士として戦い死ねばね」
「それで終わりよね」
「ずっとね、剣士になるまでは何とも思わなかったよ」
日常をというのだ。
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