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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
幕間2 弓月兄妹と学ぶ〈帝国〉史
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ばなぜ叛乱など?」

「だからこそ、さ。皇帝直轄という事は正規の官僚機構から外れた組織である、という事だ。そこに優秀な選抜された将校が入り込むと――遊ばせておくとろくな事にはならないものだ。とりわけ近くに最高権力者がいるとなればね」

「……<皇国>と違って実権ももっていますからね」

「そう云う事だ。そして中央政府が混乱すると広大な<帝国>は存外に脆い。
“正統”政府が並立すると東方辺境領を治める副帝家は即座に傍観に徹した。
脆弱な経済基盤と副帝家としての立場から介入する事は好ましくないと判断したからだろうと言われている。
一方で西方諸侯領は双方の正統政府を支持する面々が分裂し、諸侯領がそれぞれ軍勢を率いる状況となってしまった。
とはいえ、西方諸侯領における戦闘が激化したのは内乱終盤であり、幾つかの反ゲオルギィ派軍閥を糾合して臨んだ決戦に敗れた事で比較的短期間に終わったがね。
とはいえ、本領や西方諸侯領といった<帝国>の経済中枢が一時麻痺したことは<帝国>の経済構造にかなりの痛手を与えた事は確かだ。
これが遠因となって〈皇国〉の廻船問屋が〈帝国〉に進出をはじめ、皇紀五百五十二年に<帝国>大手両替商だったバクーニン商会が破産。その影響で帝国からすさまじい勢いで正貨が皇国に流出し始めたと言われている」

「ある意味では〈皇国〉が勝利した内戦と言うわけですね?」

「またある意味ではこの戦争を引き起こした内戦でもあるな。
まぁどの道、〈皇国〉廻船問屋は徐々に〈帝国〉に進出していたのだから遅かれ早かれこうなったのかもしれないがね」
葵は皮肉な笑みを浮かべて言った。
「――さて、〈帝国〉史を総括してあの国をどう見る?」

「そうですね……〈帝国〉の起源は騎馬民族の諸部族からなる聯合国で、伝統的に領土拡大を志向していたことがわかります。
広大な国土と引き換えに農奴などの下層階級の多民族化による慢性的な不満の高まり。少数民族を取りこんだ封建諸侯の〈帝国〉への帰属意識が薄くなり、反乱が幾度か起きている事から伝統的に中央政府の基盤がどうしても地方諸侯と比較すると脆弱になってしまうことが分かります」

「ほう」
 兄が向ける採点者としての視線にあたふたしながらも碧は思考の理論化を進める。
「えぇと……そこから考えるに〈帝国〉中央政府は下層階級と辺境諸侯の不満を抑える為に対外出兵か、〈帝国〉本領を中心とした安定した経済成長が必要となります」

「なぜ本領を中心にする必要があるのかな?」
 葵が面白そうに問いかけると気を落ち着けることに成功したらしい碧は若々しい知性を感じさせる口調で答える。
「政治的な独立性は必然的に経済的な独立から生まれるからです。
東州公の乱も食糧自給によって完全に経済的な独立が可能になった事が直
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