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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
幕間2 弓月兄妹と学ぶ〈帝国〉史
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い。素質のあるものは居るかもしれないが、それを磨く術はまさしく“失われた技術(ロスト・テクノロジー)”になっているようだ」

「――徹底していたのですね」
 寂しそうに碧は言う。

――〈皇国〉軍の大半や魔導院の者達は、この純化運動には感謝してもしきれない、と思っているのだろうな。
葵は内心何とも言えぬ気持ちを抱きながら史書の記憶を辿りながら言葉を紡ぐ。
「あぁ、総宗庁――拝石教の権威が下層市民にまで徹底的に浸透した経緯の一つだと言われている。“信仰帝”ウィテリウス二世も本来は異端審問を利用した総宗庁の権限拡大を厭っていたが、皇帝の権威を保つ為に黙認していたくらいだからね。
逆に総宗庁に接近して“信仰帝”と呼ばれるほどに表面上の親密さを誇示したくらいだ。
――裏では財政に手を回して総宗庁の経済力を削ごうとしたりしていたが、まぁどうにか過剰な膨張を喰い留めるにとどまったようだな」

「宮廷情勢は複雑怪奇なり、ですね」
 碧は力なく笑い、肩を竦めた。

「あぁ、だがそのあとは大規模な内乱もなく、慢性的に十年単位で発生しては収束するアスローン・南冥の帝国との戦争。東方の漸進的な領土の拡大と開拓の進行。
この辺りは馬堂の方々みたいな軍人たちの研究分野だろうな。
戦争と農奴による開拓、そして大商人の投資。概ねこうして〈帝国〉は緩やかに拡大を続けていった。最後に起きた内乱は東州乱とほぼ同時期に起きたものが最後だな」

「カルパート僭帝乱でしたっけ。これは少しだけ聞いたことがあります」
 碧の言葉に葵も頷いた。
「皇紀五百五十年代初頭に起きた内乱だ。先帝パーヴェル三世が五百五十年の春に崩御したのちに帝位継承権を争った戦いだな。
そもそもは皇帝親衛軍の一部が帝位継承を宣言したカルパート伯爵の叛乱に同調したことが、それが切欠だった。
まぁ要するに皇太子の側近の一人が次期財務尚書を狙っていた事が直接的な原因の一つだと言われている。
要するに軍部の一部が担いだわけだ」

「えぇと・・・・・・?」
 首を傾げた碧に葵は笑いかけた。
「父上の口癖はなんだ?」

「あぁ――戦後の軍縮ですね?」
 碧が印象に残るくらい弓月は戦争そのものを憤懣やる方ないものとして取り扱っている。
政治に関係ないところにいる碧ですら印象に残るくらいは激おこである。民政官僚として軍人貴族が牛耳る国家で権勢を維持し続けてきた最中に戦時が訪れてきたのだから致し方ないのであるが。
「そう云う事だ。まぁうちの義兄候補殿みたいな変わり種もいるが、概ね軍人と言うものは軍縮と言う言葉を聞くと蕁麻疹がでるものだ――とりわけ<帝国>のような国では」
 黒茶に口をつける葵に碧は尋ねた。
「あの、ですが。親衛隊というとこの国の近衛と同じですよね?
皇帝直轄なら
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