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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
幕間2 弓月兄妹と学ぶ〈帝国〉史
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に滅魔亡導運動が発生している。
――だがそうした類の事件で、この〈帝国〉において起きた“宗教純化運動”はとりわけ徹底している。
その理由を滅魔亡導と比較して考えてごらん?」

「少し待ってください・・・・・・」
 唐突な兄の問いかけに碧は慌てて歴史の悲劇から理論へと思考の向きを変える。
「――皇家のように術士を庇護する立場の者が居なかった事ですか?」
魔導院設立までの歴史には皇家の導術士の保護が密接に関わっている事を想起したのだろう。だが、兄は微笑を浮かべて首を横に振った。
「あともう一歩だな」

「えぇと、ならば――えぇっと――」
 目を白黒させながら碧は思考をめぐらせるが、葵はそれを待たずに正解を告げた。
「はい、時間切れ。答えは非組織的な民衆による運動である事だ。
最大の問題点は民間の信仰心に篤い方々が勝手に始めた事で、〈帝国〉中央政府で拝石教を統括していた拝石教総宗庁には管理しきれなかった事だ。
滅魔亡導は五将家の主導であり、ある程度の統制がとれていたからこそ、皇家も保護を行い、対将家の外交札の一つとして活用できたのさ」
 兄の言葉をかみしめるように碧はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「それに対し、〈帝国〉の宗教純化運動は民衆たちによる非組織的な行動だったから――止められなかった」

「その通りだ。最初は総宗庁も止めようとした。
国教としての総宗庁の役割は〈帝国〉領の文化的統一を補助する事であり、内紛の種をばらまいたら深刻な腐敗と帝室から独立した影響力をもった総宗庁は中央政府によって抑え込まれかねない状況だったからな。
――だが、その導術士排斥運動が〈帝国〉全土に瞬く間に広がる様相を呈するに至りに総宗庁は静止する事辞めた。彼らは民衆の反感を逸らす為に導術士を異端として審問官を送り込み、独自に裁判を行った。
俗に宗教純化運動と呼ばれているのは初期の腐敗是正ではなくこうした宗教裁判の方だ」

「でも、そこで総宗庁が統括できるようになったのなら、歯止めをかけられなかったのですか?」
 碧の言葉に葵は皮肉な笑みを浮かべて答える。
「限定的であるが、異端審問に関する独立した司法権を認められた。
総宗庁はそれを手放すつもりはなかったからね。一端始めた以上はそうそう終わらせるメリットも薄いからな。総宗庁も官僚化されているという事だな」

「……」

「まぁ、そうしたわけで導術排除で政治的危機を凌ぎ、民衆の支持を高めた総宗庁は政治的に大勝し、確固たる地盤を得た。
勤勉な〈帝国〉臣民諸賢は三千万以上の“背天の技”を使う呪術師――導術士の疑いがある人物を殺しつくした。一時的に導術士の多い地域は、人口が半数近くなったと言われているくらいだ。だから今でも<帝国>は導術排除を大いに重視しているし、〈帝国〉国内に導術士は居な
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