暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
幕間2 弓月兄妹と学ぶ〈帝国〉史
[5/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
帰属意識を高める為、そして皇帝の権威を〈帝国〉全土に広める為だと思います。
それに加えて東西がほぼ完全に異文化の国になってしまった事から<帝国>としての統一性を作り出すことも目的でしょうか」

 妹の返答に葵は目を細めて頷いた。
「うん、ほぼ満点だな。〈帝国〉共通語は、過去の言語の特徴を巧みに組み合わせただけあり、四半世紀ほどをかけて〈帝国〉全土に定着した。
ロッシニウス家のアレクサンドロス一世は、公的な文書においても私生活においてもロッシナ家のアレクサンドル一世と名乗り、これによって保守的な宮廷内でも公用語の使用を強引に推し進めた。――これでさっきの碧の疑問に答えることにもなるな」

「はい、御兄様」

「――そして、〈帝国〉公用語と共に文化的統一の道具として利用されたものが有る。
何か分かるか?」

「えーと・・・・・・流通の活性化でしょうか?人を動かせばそれだけ公用語の統一性も広がりますし」
 ――如何にも東州乱後産まれらしい答えだ。
同じ答えを返し、かつて講師にそう笑われた事を思い出した葵は小さく溜息をつくと懐かしむように笑みを浮かべた。
「お前も〈皇国〉人として健全な価値観を持っているようで安心したよ。
だが、残念ながらそれをやるには〈帝国〉は広すぎるし内乱直後は東西の隔意が強すぎた。
内乱間もない状況でそうした方策をとるのは危険に過ぎたからな」

「むぅ……それでは正解はなんですか?」
 頬を膨らませた妹を見て小さく笑い、葵は正解を告げる
「答えは宗教だ。拝石教――〈帝国〉の国教とされている大宗教で“石神”をあがめる一神教。名前くらいは知っているだろう?」

「はい、救貧活動を行っていますよね。献金を募って孤児院を造ったりしているのは聞いたことがありますし、私も茜御姉様と故府の施設を見に行った事もあります」

「あぁ、父上が故府の州知事をしていた時にそんなことをやっていたっけな
〈皇国〉総石院か。アレも〈帝国〉の拝石教総宗庁から見ると異端扱いなのだがね。
まぁ殆ど交流がないから問題にもならないが」

「どうしてですか?特に害になるようなことはしていない筈ですが」

「〈皇国〉の導術利用に言及する事がないからさ。本来、導術は教義に反するものだ。
まぁ少なくとも総宗庁はそういう事にしている」

「確かに、豊久義兄様も〈帝国〉は導術を使わないとおっしゃっていましたけど
それが――そこまで問題になるのですか?」
 正確には(まだ)義兄ではないのだが、北領から戻り、そして再び軍務に復帰してからなんとはなしにそう呼ぶようになっていた。茜も葵も気づいているのだが、指摘する事はない。

「〈帝国〉民衆の中で拝石教が確固たる権威を持ったのは、皇紀三百年代後半から皇紀四百年頃まで――具体的に
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ