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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
幕間2 弓月兄妹と学ぶ〈帝国〉史
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〈帝国〉語は〈帝国〉語でも史料を読む勉強用だよ」
頬を膨らませた妹に笑いながら云う。
「あぁ、待っててくれ。良い本を見繕ってみよう」

「ありがとう、御兄様。それと――これの内容、教えて下さる?」

「〈帝国〉史に興味があるのか?大半は戦争と内戦の話になるぞ」
 ――ただでさえ物騒な世の中なのにこれ以上物騒な歴史を学ぶ意味があるのか?
拗ねた思いが脳裏を過ぎるが葵はそれを即座に打ち消した。
――あぁあるとも、あるだろうさ。少なくとも愚かな憧憬を持つよりもそこへ至るまでの合理性とその結果が齎す愚かしさと愚かしさを知った者達による変革の訪れを知り得ることが出来る。
「そうですね、でもこの御時世に小説の書かれた年数やら歌集の作家の名前やらを暗記するよりはマシでしょう?」

「そうか?まぁ学んで損はないと思うが――1日で終わるものでもないし、簡単に歴史の概略だけでいいな?」

「はい、よろしくお願いしますね」

「ん、まずは〈帝国〉に関する基礎知識はどの程度ある?
〈皇国〉と開戦するまでの歴史だぞ?」

「〈皇国〉北方、ツァルラント大陸に存在する〈大協約〉世界最大の国家でその歴史は〈皇国〉よりも古い。
広大な国土は、西方諸侯領・本土・副帝家が統治する東方辺境領にわかれ、ロッシナ家による帝室の支配が行われている――」
 語尾を濁しながら碧はそっと目を泳がせた。
「そこで挫折したのか」
兄の笑い声に碧は拗ねたように唇を突き出した。
「だから教えていただこうと思ったのに、酷いわ」

「それは失敬、それでは簡単な基礎知識から始めよう」
 そう云うと葵は<皇国>地学院発行の〈大協約〉世界図を広げた。
 C・NOVEL版と文庫版両方の巻頭に載っている読者諸賢にも御馴染みであるあの地図である。
「皇紀前四百十五年にケリウス・マクシノマス王(ゴーラント一世)によって建国された〈マクシノマス家ならび諸卿の合意による聯合帝国〉――直訳だから無駄に長いな――を母体とし、幾度かの膨脹期と、数知れない内乱を経て、ツァルラント大陸のほぼ全土を支配下に置く現在の〈帝国〉となった。
あくまで概略だけだが、順番に話そう」
 膝の上で掌を組み、目を閉じる。こうしていると葵は官僚と言うより洒落者の学士といった雰囲気を漂わせている。
「先ずは“西方への拡大(ドランク・ナッハ・ヴェステン)”だな。これは現在の西方諸侯領の大半がこの時期に編入されている。
〈帝国〉の西方への領土拡大期を表す用語で幾度もの遠征を総括した一時代の名称と考えてくれ。
その時期は具体的な年数はまだ議論されているが、おおむね〈聯合帝国〉建国から皇紀前百九十年前後までの二百年以上の物だ。その形態は遊牧民族の略奪と定住民族を支配下に置く方法による版図拡大で、この拡大期
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