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最初の夜に
最初の夜に
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。彼に相応しくない、そして、実に相応しい薄ら嗤いを、その万人に埋没しがちな容貌に浮かべて。
 対して、少女の方は変わらず。感情を表す事のない透明な表情。メガネ越しの冬の属性の視線で、青年を射抜くのみ。

 ………………。
 …………。

 いや、違った。現在(いま)の彼女は、確かに青年を見つめていた。
 最初の彼女は、彼の存在を瞳に映しながらも、関心を示す事は無かったと言うのに……。

「今度こそ、あいつは消えるぜ」

 何気ない。……まるで、昨夜のテレビの内容を語るような自然な雰囲気で、そう語る青年。
 その瞬間、世界にヒビが入る。

 室内の雰囲気は変わらず。二人の人間が存在していると言うのに、僅かな衣擦れの音、いや、かすかな息遣いさえ聞こえて来る事のない静寂の空間。そして、進み続ける時計の秒針は留まる事を知らず、明日、最初にすべての針が同じ時を差す時刻の五分前を指し示す。
 しかし、この瞬間、確かに何かが変わっていたのだ。

「そう言う予定だからな」

 青年は、彼の存在に相応しい雰囲気で少女を瞳に映した。

 刹那、世界のヒビが更に広がる。此方と彼方。今日と明日。現世と異界。
 境界線が更に曖昧となり、世界の軋む、音にならない音。悲鳴にならない声が聞こえて来る。
 気温は低く、しかし、異常に湿度の高い大気の中を、その雰囲気に相応しい夜の子供たちが跳梁跋扈する。……そう言う妖しき気配に支配された世界。
 大地からは蠢く力が立ち昇り、天からは妖の気が音もなく降り注ぐ。

 ゆらゆらとたゆたう虹色の泡たちが、青年の周りを、そして、少女の周りを音もない音楽に導かれ、ゆっくりと周り続ける。
 そう。何時の間にか、彼の頭上を彩る虹色の泡の数が増えていた。

 ひとつ、ふたつ、みっつ……。

 そして。ゆっくりと世界の在り様と、少女が極彩色の渦に包まれて行く。

 よっつ、いつつ、むっつ……。

 光が一周するごとに、世界が軋み、

 ななつ、やっつ、ここのつ……。

 聞こえない音楽が曲調を変えるたびに、世界が悲鳴を上げる。
 時計の文字盤に刻まれた数字が踊り、針は正常な動きとは反対に向け周り続ける。
 まるで時間自体を、あの日の夜に戻そうとするかのように……。

「あいつは、その(サガ)として、易きに流れると言う性質を持って居るからな」

 青年の一語一語に異世界の侵食は進む。その七色の光に包まれた先に垣間見えるのは、人の領域に非ず。
 狂気と邪悪。そして、混沌が支配する世界……。

 七色の泡が、幻想的な光の舞いを続ける。

 少女の本当の願いを知って居るかのように……。
 本人さえ気付かぬままに強く、激しく、狂おしいまでに求め続けた()|か《・
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