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最初の夜に
最初の夜に
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ない。ただ、街に出掛けると確実に出会う事の出来る、当たり前に存在している普通の青年。
 顔立ちは……整っている、と表現されるだろうか。但し、成人男性とするなら華奢な部類に分類される体型。白のTシャツ。その上に、季節感にややそぐわない淡い色合いのテラードジャケットをはおり、黒のパンツは定番と言えなくもないファッションセンス。
 長くもなく、そうかと言って短くもない髪は黒。

「貴方の事を愛した覚えはない」

 メガネ越しの冷たい瞳で青年を射抜きながら、彼女に相応しい、硬質で、やや抑揚に欠けた口調で、そう答えを返す少女。
 しかし、その瞬間に、夕方から降り出した雨に因って冷やされきった夜の大気が、彼女の口元をそっと白くけぶらせる事により、彼女が、現実に存在する生身の少女で有る事の証明と為す。

「そうだったかな。……確かに、そうだな。あれは今のお前では無かったよ」

 気のない答えを返す青年。少し……いや、かなり、やる気の感じさせないその答え。
 但し、この晩秋の、そして、ひとつの暖房も使用される事のない室内に有っても尚、彼の吐息は、その口元を白くけぶらせる事は無かった。

「けど、あれはお前が悪いんだぜ――」

 そして、それまで発して居たごく普通の青年のままの雰囲気で、その青年は続けた。
 ごく自然な振る舞い。及び、この年頃の青年に相応しい雰囲気で。

「俺を、殺そうとしたんだからな」

 異質で、異常なひと言を……。
 心の底から凍えさせるような、そんな冷気にも等しい狂気を纏った、本能的な恐怖が呼び覚まされる、その言葉を……。

 しかし、少女の方は、その表情を曇らせる事もなく、ましてや視線を逸らす事もなく、青年をただ、そのメガネ越しの冷たい瞳で射抜くのみ。
 其処からは、愛も、そして、憎悪すらも感じられる事はない。

 そう、其処に有ったのは、ただ虚無のみ。其処には何も……。青年も、そして彼女の精神(こころ)さえも存在してはいないかのようで有った。

 その少女の言葉にならない答えを聞いた青年が笑う。その笑みから覗く僅かに残った少年の残り香が、青年が、未だ少年と呼ばれても不思議ではない、そんな微妙な年齢で有る事を予感させる。
 但し、凍てつく冬を予感させる冷気。そして、彼が発する豊かな感情を表現するはずの笑いから伝わって来るのは……。

 表皮が粟立つような狂気。それは日常を容易く浸食し、彼の発する色にすべてを染め上げて行くかのようで有った。

「あの時のお前は人形そのものだったが、今のお前は――」

 何気ない仕草で自らの顎に手を遣り、少女を見つめる青年。その視線は、最初から変わらず、積極的な意志の力を感じさせる事もなく、その口調のやや気だるげな雰囲気は変わる事はない。
 ただ
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