デュエルペット☆ピース! 第4話「SIN」(後編)
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……あの子は、「アズ」よ』
その結果として、父のタガが外れた。振り下ろされた凶器は、胸の中央を深々と刺し貫いた。赤い噴水が、部屋中を彩っていく。
『ひぃっ……!』
凄惨な光景の中、あまりに場違いな情けない声が、当の父の口から出た。全身を真っ赤に染めた母の上から降り、慌ててその場を離れようとするが、血で濡れた畳に足を滑らせ、その場に尻もちを付く。
そして―――沈んだ男の代わりに、真っ赤に染まった女が起き上がった。母の顔には、指される前と同じ笑みが張り付いている。赤い顔の中に浮かび上がる漆黒の瞳が、ゆっくりと夫をとらえ、金縛りに追い込む。男が逃げられなくなったことを確認し、母の顔がさらにいびつに歪んだ。
不意に、血だらけの顔が夫のさらに背後―――傍観していた委員長に向けられる。突然に壮絶な視線で射ぬかれ、少年は息を呑んだ。額から垂れた血が眼の中に流れ込み、黒い瞳すら真紅に染まる。その真紅に、少年は見覚えがあった。決闘に赴く聖衣をまとった、彼女の娘の瞳の色―――。
ふ、と、母親の顔から狂気が失せて、少女の表情になる。少年に向けて、母ははっきりとこう言った。
『「死ぬほど、愛して」』
その声は、少年の知る今のアズの声と重なって聞こえる。
少年がその言葉の意味を悟るのと同時に、母の視線が少年を外れて、自分を刺した夫へと戻る。
―――ぶしゅぅっ!
母が、自分の胸から包丁を引き抜いた音であった。胸からの出血が激化し、スプリンクラーのように、父親の頭から爪先まで、全てを赤に染める。
当然、眼の中も。血液が流れ込み、視力を潰されてしまった父が、情けない声を上げて両目を激しくこする。だがそれは、角膜を傷つけ、水晶体に赤を浸みこませるだけであった。
ゆらっ、と母が一歩寄り、引き抜いて間もない暖かな包丁を、右手に握りしめ、左手を柄の部分に添える。視界が赤に潰されたというただそれだけのことで、子供のようにわめきたてる男―――その首筋に狙いを定め、母は包丁を突立てた。文化包丁の刃が頸動脈を引き裂き、なおも肉を突き破って―――その状態から、一気に真横に向けて包丁が振りぬかれる。男の首は、ほとんど薄皮一枚でつながっている状態まで、裂かれたのだった。
男の首からの出血も加わって、二つの死にぞこないのスプリンクラーが、さらに部屋を余すところなく血に染めていく。しかし、どういう訳か、部屋の中央、二人の娘が倒れているその周辺だけは、一滴の血も付着せず、円形の聖域のように畳が元のままの色を保っていた。
男の身体が、どしゃりと倒れ込む。胴体から外れかかった首はあらぬ方向を向いていた。
『あはっ……あははっ……あはははははははっ!』
母の笑い声が、狂気を咲かせる。より狂っていたのがどちらか、火を見るより明らか
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