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デュエルペット☆ピース!
デュエルペット☆ピース! 第3話「英雄超克」(前編)
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日、警察で取り調べを受けた時よりも、自分の意識が地に足を着けているだけに、浮遊して逃げられない分、一気に追い詰められる。
 彼女の剣が、衛士教諭の腕を落とし、彼女が止める間もなくそのまま、首と胴体を斬り分けてしまったあの瞬間の光景が、とうとう脳裏によみがえる。今日一日、務めて思い出さないようにしていたはずが、恐ろしいほど鮮明に浮かび上がった。罪ならばまだよかった。その光景は彼女の罪を越えて、生々しい現実を突きつける。誰が悪いという判断の問題ではなく、ただ、彼女がその場にいて、剣を振るったという事実こそが、何よりも重く、目を背けたい対象だった。
 急に吐き気がこみあげ、アズは両手で口元を押さえて、教室の出口へ向けて駆けだした。すれ違いざま、肩が委員長の二の腕あたりにぶつかったが、振り返る勇気も、またその気力もなかった。ただ逃げたかった。
 戻れない―――獅子が必死に自分を日常へ返そうとしていたのに、その努力は全て無に帰してしまった。あとは、彼女の生命すら危うくする、非現実がのたうちまわっているだけの世界しか残らない。
 トイレの個室に駆け込み、喉元まで迫ってきたものを解放する。熱いものが鼻にまでまわり、胃液の苦みが顔全体にいきわたった。
 戻れない―――もう一度、その言葉が浮かぶ。その瞬間、第二波が胸元から襲ってきた。結局、胃の中のものを全て吐いてしまうまで、吐き気は収まってくれなかった。


                     *     *     *


 アズが走り去ったのち、ファーストプラムの生徒たちは一気にざわめき出した。中には委員長の突然の行為をとがめるようなものもいたが、それよりも、少女の反応が様々な憶測を呼び、異様な盛り上がりを見せていた。少なくとも、無関係ではないのだと。
 委員長は、鞄だけが残されたアズ机の前でそのまま立ち尽くしていた。その少年に、言葉を投げかける女生徒が一人。

「ずいぶん直球だったねェ。委員長さん?」

 アズのすぐ後ろの席、後ろ髪のぴんと跳ねたショートヘアが特徴的な、活発な印象を与える美少女。端正なその顔に皮肉の色を混じらせて、眼鏡の少年を見つめている。委員長は、半ば睨みつけるようにして眼鏡の奥から視線を返した。

「どういう意味だ……諸星」
「べっつにィ。慎重派の委員長サマにしては、思い切った行動だったんでねェ」
「まあ、いい。それよりお前、一つ頼まれてくれよ」
「頼み?」
「ああ、それ―――」

 委員長は机の上の鞄を指す。アズが残していった通学用のものだった。

「小鳥遊さんを探して届けてやってくれ。どうせ暇だろ、帰宅部」
「なんであたしが……まあ暇だけどさ……てか、あんたが行けばいいじゃん」
「そうしたいが、俺が行っても気分を害するだけだろ。頼む。
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