デュエルペット☆ピース! 第2話 「聖職」(前編)
[2/18]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
*
目覚めてすぐなのに、いやに意識がはっきりしている。毎朝けたたましい目覚ましの音で叩き起こされていた日常の彼女とは、決定的に違っていた。すべてが夢だったのかと一瞬疑ったが、床に転がった鞄のだらしなく開いた口の中に、書籍類のないのが目に入って、教科書の支給を受けていないこと、すなわち、昨日登校していないことを確認した。全て現実。よく見ると、枕元に昨夜一緒に寝ていたはずのグラナイトのものと思しき、白の毛が幾本か抜け落ちている。
アズは布団から体を起こした。夢の中でナイトが語ったことが真実だとすれば、デュエルピースはあと12枚。全てデュエルに勝利して収集するのだとすれば、最短でもであと12回、昨日のような激闘をくぐり抜ける必要があることになる。そして、獅子とともにその死闘を戦い抜く覚悟は、正直言って彼女にはなかった。
竜の白い炎に焼かれた記憶がよみがえる。体が震え、心の芯が凍りつくような恐怖。自分の生命力でよく持ちこたえられたものだと、正直驚いている。あんなものを何度も味わうかもしれない戦い。おそらく、正気ではいられまい。だからこそ白獅子は、彼女を巻き込むまいと、夜のうちに去って行ったのだ。
だから塗り替えればいい。一日ぶん、多く寝てしまったのだ。昨日のことは全て、光り輝く夢なのだと。仮にデュエルで負けていたとしても、そこで目が覚めて、悪夢という後付け評価を下していただけのこと。
布団から出て、伸びをする。窓の外は快晴。新生活をやり直すには申し分ない天気だった。
「それでいいんですよね……ナイト」
きっと、この名を口にするのも最後。ぬいぐるみのような手乗りの獅子は、きっと今日もどこかで残る12枚のカードを当てもなく探し歩いているのだろう。でも、それは自分のいるこの街とははるか離れた異郷で―――青空だけがアズと獅子をつないでいる。きっと、それで十分なのだと。
* * *
顔を洗ってから、冷蔵庫をまさぐる。買い物など行っていないのだから、昨日と状況が変わっているはずがなかった。仕方なく、食パンにオレンジマーマレードを塗りたくる。柑橘系のさわやかさと苦さが、ぼやけた朝の頭をたたき起こしてくれるところが、このメニューの唯一の利であると、常々ぼやけた朝の頭で考えていたが、脳が余すところなく覚醒している今朝は、ただ甘いだけの炭水化物としか感じなかった。
洗面所に行って歯を磨く。朝食とどちらが先であるべきか―――はこの際どうでもよい。艶めく黒髪を念入りにとかして、お気に入りのリボンでポニーテールを形作る。ふと、鏡に映った自分の顔を見る。一瞬、桃色の髪に赤の瞳、デュエルフォームの彼女が鏡の中に現れた気がしたが、やはりそれは幻覚だったのだろう。そこにある
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ