デュエルペット☆ピース! 第1話「転校生ふたり」(前篇)
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信させる。
急がなければ。一段と速度を増して駆ける獅子。この瞬間に危機に陥っている人間がいると、彼の本能が告げている。せめて最悪の結末だけは避けねばならない。彼の使命は、人間を幸福へ導くことなのだから。
* * *
間違いなく、悪夢の類であった。
肉食恐竜を思わせる凶悪な口と牙の並び、太い胴体、しかし恐竜のそれとは明らかに違う、発達した長い腕、その先端の四本に分かれた指と、研ぎ澄まされた刃物のごとき爪の怪しい動き。背中から伸びる尾は、竜の全長を倍にも引き伸ばしていた。そして竜の全身が、発光体と見紛うほど純度の高い白金の鱗に覆われ、目に痛いほど朝日を反射する。さらには、その竜の瞳。それは、透き通った白い球体である。体を覆う白の鱗よりはるかに高い透明度。その瞳から発せられた視線の圧力に、少女は射すくめられる。一瞬、少女は満月を連想した。
白き竜の瞳の月光、すなわち眼光に貫かれた少女の身体は、本人の意思に反して指一本たりと動いてくれなかった。精神と肉体をつなぐネットワークが切断されたかのようである。先ほどの血なまぐさい凄惨な光景から一気にベクトルが変じたが、非現実的な光景であると同時に、生命の危機に少女を震え上がらせる点では、同じである。
白き竜の口が大きく開かれ、虚空から光が生じ、口腔内に収束する。光のエネルギーは、真っ白い炎の形へと変化していく。白い炎。少女には見覚えがあった。先ほど見つけた幾体もの亡骸たちの中に、皮膚を焦がされた男子学生や、死してなお白の炎に身体を焼かれ続けている者たちがいたことを、鮮明に思い出す。
あの凄絶な光景は、眼前の竜が作り出したものだったのだ。天空より飛来した白き竜が、自分同様、通勤や通学の途中であった人々を襲撃した。ある者は竜の牙と爪によって引き裂かれて血しぶき、またある者は、竜の吐き散らす白い炎に巻かれ、そして焼かれた。まさに、空襲。現代のこの町に、命の希望をつなぐ防空壕など存在していない。竜の視認は、直ちに死に繋がるのだ。そこに残ったのは、白き竜と、これを使役する狂った女学生のみ。
そして、少女自身も同じ運命をたどる―――凍りついたように動けなくなった彼女は、心の奥で自身の運命を悟っていた。白き竜の口に収束された炎が、口腔からあふれんばかりに猛り狂い、まるで解放の時を待つ革命市民のごとくうねっているのが見える。もはや助からない。一瞬の後、放出された炎が白の濁流となって、彼女の身を余すところなく焼失させるだろう。どれだけの苦痛を伴うのかは想像がつかないが、終着点が生命の終わりであることは確実だった。
死が迫る。いよいよ最後の瞬間には走馬灯の類が見えるというが、この時少女の脳裏に浮かんだのは、ただ、母の顔で―――
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