デュエルペット☆ピース! 第1話「転校生ふたり」(前篇)
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生活の開始を強調しているようで、思わず少女は笑顔になった。
再び洗面台の前に立ち、肩にかかる艶めく黒髪に櫛を入れる。少々癖のある髪質故に、この作業を念入りにしておかないと、後々後悔する。普段からあまり飾り気のない彼女だが、きちんと解かされた髪を、お気に入りの赤いリボンで、後頭部の一点でまとめてポニーテールを作る朝のこの瞬間は、小さな達成感をくれるささやかな楽しみの一つである。
そろそろ出立の時間である。彼女は、学習机の上に立てられた写真に写る両親の姿を見つめ、一礼したのち、弾けるような笑顔を浮かべて言った。
「では、行ってまいります」
少女は、世界へ向けて駆けていく。
* * *
今日から彼女が通う学校は、電車で3つほど先の白鳩市中央にある。通学の最初の行程として、まず駅を目指して歩く。目的地である白鳩市は、通称シティと呼ばれ、県内でも一二を争う繁華街だが、彼女が住まうことになった、白鳩の隣市にあるこの町は、住宅と賃貸物件の密集した衛星地帯、通称サテライトである。高度成長の折に決定したこの構図は、40年以上経過した今でも維持されているが、シティとサテライトの対比は、命名当時はさぞハイカラであったのだろう。
少女は、住宅の中を縫うようにして敷かれた細い道を通り抜け、大通りへ出た。大通りと呼ばれてはいるが、白線によって仕切られた左右の歩道と二車線としかないその道は、普段から交通量が少ない。通勤・通学のこの時間ですら、一台の自動車もなかった。
その時、車道のど真ん中に倒れているスーツ姿の男が少女の視界に入った。驚き、駆け寄って助け起こした瞬間、彼女はひきつった悲鳴を上げた。その男の顔面が、一見では人相がわからないほどに血塗れであったからである。反射的に、彼女は眼を閉じて顔をそむけたが、たとえ視界を瞼で遮断したところで、朝の澄んだ空気の中に漂う鉄錆の香りが、今の光景が現実であったことを再認識させる。
恐怖に震える手で、彼女は意識のない男を元通り地面に寝かせると、周囲を見回し人を探す。明らかな異常事態である。物理的にも心理的にも、自分ひとりでは対処できないと直感し、助けを求めようとしたのだ。だが運悪く、通行人は見当たらない。
それどころか、駅へ続く車道のさらに先に、学生服の少年が倒れている姿が目に入ってしまう。まさか、の三字が思考を駆け巡り、少年のもとへ駆け寄る。よく見れば、学生服はボロボロになっており、あちこちが破れているどころか、焦げた跡まであった。反射的に少年の顔を覗き込むと、顔の半分近くの皮膚が焼けただれた惨状が目に入る。
その光景のあまりの衝撃に、彼女の腰が砕けた。その場で尻もちをついて、スカートがめくれ上がるのも気にせず、お尻を引きずっ
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