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誰が為に球は飛ぶ
青い春
四 意地っ張り
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す、それは洞木光である。

「重そう。一つ持ってあげる」
「え?いいよ、それは」
「良いから」

光が真司の持っている大きな袋を奪う。
そうして、このまま途中まで、一緒に帰る事になった。


ーーーーーーーーーーーーーー

「1人暮らしなんだ」
「うん。春からずっとね」
「自炊?ちゃんと食べてるの?」
「え?ああ、まあ適当に、かな」

第三新東京市を走るモノレールの隣に座る光と真司。季節は秋で、部活から帰ると、もう日はすっかり暮れている。

「……」
「……」

沈黙が続く。そもそも真司に、女の子とペラペラ何かを話し続けるようなスキルは無いし、そのモチベーションもない。光も同様だ。しっかり者で、男子特有のアホさを叱る事は出来ても、それ以外の関わり方をそうそう知らない。その原因は多分、藤次と過ごした時間と、その時間の中で固定化されてきた関係なのだろうが。

「…私、次の駅だ」
「そう」

光の方が、学校から家が近い。
別れが近くなって、不意に光が話し始める。

「碇君、野球はもう、嫌いなの?」
「ん…」

唐突な質問に、真司は困ってしまった。

「…嫌いじゃないけど…もう一度やる自信はないかな」
「そうなんだ」

光が真司の目を見た。ショッピングモールで出くわしてから、目を見たのはこれが初めてかもしれない。

「あの時見た、碇君のストレート、速かったわ。少し羨ましかった。」
「ええっ…とぉ…そんな事無いよ…」

いきなり褒められて、少し真司はまごついた。
真顔で褒められるなんて照れくさい。
そんなに親しくない女子相手ならなおさら。


「羨ましいって言うのはね、球の速さとかじゃない。私たちがすごいすごいって思っても、そう思われてる事を何とも思わない、碇君が羨ましかった。私たちよりずっと高い所に居るのかなぁ、とか思ったり…」


モノレールが停車する。光が席を立つと同時に、ドアが開いた。

「変な事言っちゃってごめんね。気にしないで。」
「ああ、うん。さようなら。」

光は真司に背を向けて、車内から、涼しい風の吹く外へと出て行った。
冬が近づいてきていた。


















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