青い春
四 意地っ張り
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何の為に必要なのかな?」
「え?」
薫はそこに疑問を持った事は無かった。
真司がどうやら腕の良い野球選手だから、野球部としては真司が居ると助かるのだろう。
それくらいの認識だった。
「あの程度の球は、鈴原もすぐに投げれるようになるよ。僕が言った通りに練習し続ければね。日向さんが欲しいのは、あの球だ。決して僕じゃないさ。あの球が手に入れば、それを投げてるのは別に僕じゃなくたって構わない。多分そうなんだ。」
真司は手際良くモノをどかせたりして、部屋の隅々の誇りも一箇所に集めていく。
「まぁ、戦力として考えれば、ピッチャーは多い方が良いよね。でも、ピッチャーを揃えて、少しだけチームが強くなったとして、その先に何があるのか…一つも勝てなかった所を、一つ、二つと勝ち進んでいけるようになったとして、その結果の先に何があるのか…僕にはよく分からないんだ。その二つの間の違いの価値が、よく分からないんだよ。そんなよく分からないモノの為に、僕みたいな奴をチームに入れるというのは、安直じゃないかって考えちゃうんだよ。」
「そして、君もそんな『よく分からないモノ』の為に努力はできないし、したくない」
真司はふふっと笑った。
「そういう事になっちゃうよね。野球は中学までやってたんだけど、何というか…もう気持ちが奮わなくなっちゃって…」
薫は真司がゴミを集めるのに合わせて、塵取りを用具箱から持ってくる。薫が構えた塵取りに、丁寧に真司がゴミを収めていく。
「……僕が一番気になるのはね」
「?」
ふと、しゃがんでいる薫が真司の方を見上げた。特徴的な赤い瞳が真司の黒い瞳を捉える。
「…君は色々言いながら、そして拒絶した風でありながら、どこか今の状況を喜んでる。自分の中の何かが変わる事を期待してる。そういう風に、僕には見えるという事なんだ」
真司の眉がピク、と動いた。
薫は、微かに戸惑いの色が見える真司にニッコリと微笑んで、塵取りを持って部屋を出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「洗剤に、タワシに重曹、洗顔料に、新しい歯ブラシ、お米にこの先一週間のおかずの食材か。…ちょっと買い物貯めすぎちゃったな」
クラブハウスから帰宅する途中、真司はショッピングモールに寄った。真司は現在、一人暮らしである。こうなってしまったのには色々事情はあるが、だがしかし、とりあえずお金に苦労はしていないだけでも真司には十分な事に思えた。仕送りは十分過ぎるくらいで、毎月余らなかった事がない。1人が寂しいと言って泣くような可愛らしさは、残念ながら真司にはもう残っていない。
両手を袋で一杯にして、さあ帰ろうという途中、真司は見慣れた顔に出くわした。
「あっ」
「…委員長…」
おさげの髪にそばか
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