彼は一人怨嗟を受ける
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「劉備軍の挑発作戦はうまくいっていないようね」
もうすでに三日目。劉備軍は毎日挑発を続けているが、未だ敵軍は関から動く様子も無く効果は表れていない。
「桂花はこの策、どう見る?」
こちらを見ることもせずに自身の主から問いかけられ、こほんと一つ咳払いをして自分の思考を主に語る。
「守将が華雄一人の場合であったならある程度は有効だったと思われますが張遼もいる中で、となると厳しいかと。ただ――」
言葉を区切ると、華琳様がちらと横目で私を見やり、さらに目を細めて先を促す。
「この策に張コウが絡んで来ますと成功の確率は格段に上がる事でしょう」
あの子がいるなら話は別。私の親友の一人である明がいるのならば。
「張コウはあなたの友とは聞いたけれど、どのような人物なのかしら?」
「彼女は人の感情の機微に聡く、それを利用するのが上手いです。また人の目など意にも介しません。彼女にあるのは自分の目的のみです」
「その目的は……そうね、あなたが話したくなったら私に話しなさい」
すみません華琳様。ここからはまだ言えないのです。私に……あの子と戦う覚悟が足りないから。
「申し訳ありません。」
「謝る必要はない。あなたは私の軍師。そうでしょう?」
皆まで言わなくても分かるだろうと言外に伝えられる。
そうすることで私をも労わってくださる。かつて私を助け出してくれた友達がくれた恩を踏み倒す覚悟が無い私は、まだ華琳様に甘えてしまっている。
今の大陸の現状を理解し、袁家の状態と内部の情報を知り、そしてあの子を直接見たら……心が痛み、後悔の念が湧き出てしまっている。
これを乗り越えろ、と華琳様は言っているのだ。自分で成長して軍師として並び立て、と。
「ありがとうございます」
大丈夫、すぐに乗り越えてみせる。
夕、それに明。私はこの方に付いていく。この厳しくも優しい本物の覇王に。
†
「バカな奴らだ。いつまでも同じ事を繰り返しおって。私がそんな安い挑発に乗るか」
砦の前に並び、口々に罵声の言葉を投げかけている将や兵を見下しながら、三日も同じ手を使い続ける敵に呆れが口を突いて出た。ただ、私がここまで冷静にいられるのは張遼が共にいてくれるのも大きいかもしれない。
「にしし、目にモノ見せてくれる! とか言うかと思てたんやけどなぁ」
張遼はからかうようにこちらを見て、肩をぽんと一つ叩いてから言った。お前はたまに失礼なやつだな。
「あのお方を守るためだと出陣前に賈駆にも言われただろう? それならば私がいくら罵られようと知ったことではない」
洛陽の都を出る時に我が軍の軍師から口を酸っぱくして懇々と諭された事を思い出し、そして儚げに微笑んで優しく見送ってくれた主の姿が目に浮かんだ。
私はあのお方に出会って変われたのだ。
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