彼は一人怨嗟を受ける
[2/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
以前の私なら、一日目ですでに飛び出していたことだろう。
「あんたはホンマええ将になったなぁ。こりゃあうちも負けてられへんな」
「ついで扱いでお前も罵られているというのに笑い飛ばす奴が良く言う」
めったに私を褒めなかった張遼が突然褒めた事に驚いたが、それならばとこちらも褒め返す。
張遼は共に仕事をする度に思うが本当に頼りになる奴だ。今回の挑発に対しても初めの頃に兵達がいきり立ち始めた時、私が口下手で伝えきれない事柄をうまく説明して落ち着かせてくれた。
そのように自分には無い彼女のいい所に感心していたが、
「華雄に褒められるとか……気色悪いんやけど」
まさにドン引き、といった身振りをして数歩私から遠のいた。
「貴様! 人が下手にでればぁ〜!」
「あはは、なんでうちには怒るんや! けったいなやっちゃなぁ!」
さすがに頭に血が上ったので怒鳴るとからからと笑いながら私を宥めてきた。戦から帰ったら覚えておけよ?
苛立ちをそのままに張遼を睨みつけていると戦場を見ていた兵士が私達に声を掛ける。
「将軍! 敵兵、いつもと異なる動きあり! 陣中央から別の部隊が突出してきます!」
声を聞いてすぐに城壁から少し身を乗り出して下を見ると、敵の中央から赤い髪を風に揺らす女に率いられたが近付いてくるのが確認できた。
「なんやあれ? 袁紹軍の将かいな」
「袁紹の? あの色は袁紹軍のモノなのか」
混成軍という事もあり様々な鎧の色があったが、今日は緑の中に金色が少し混じっていた。やっとまともに攻城戦をする気になったのかもしれない。
ある程度近づき、部隊最前から一人にやにやと薄ら笑いを浮かべてこちらを見上げる将は、目線を動かし何かを探しているように見えた。
私と目が合うと一層に笑みを深めたが、目を少し瞑ってから真顔になり語りだした。
「華雄将軍。私は袁紹軍が将、張コウ。あなたのその武名、大陸に広く届いている。将軍が何故こんな所で縮こまっているのか私にはわかりかねる。あなたほどの方が何故正々堂々と戦えないのか。あなたが出て来たなら私たちの軍など粉微塵にしてしまえるはず」
張コウと名乗った将の言葉にさすがの私も面喰う。何故あいつは私を褒めているのか。
「挑発する気あるんかいな。あれ」
張遼は訝しげに張コウを見つめ、呆れの言葉をため息と共に零した。
尚も張コウは続けようと口を開いたが……急に様子が変わる。
「そのため……あー、固っ苦しい! 華雄ちゃん。ご主人様に尻尾を振る華雄ちゃんはこの関で待てをかけられたんだねー。かわいそうにー、あはは!」
「なっ!」
口調が砕け、先程までの凛とした声は見る影も無くなり、甘ったるい悪戯好きな少女の声でへらへらと笑いながら語り始めた。
「ごたごたの末に国を盗んで、権力を笠に着てやりたい放
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ