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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
Frohe Weihnachten !!〜聖夜の杯〜
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かる上官を見上げて、フェルナーはふふっと笑った。
「あ、そうやって逃げようとなさる。本当は俺に勝つ自信がないのでしょう?こうなったら朝まで……」
「分かったから、そのグラスをこちらへ寄こせ」
オーベルシュタインは頑なな部下の手を引き剥がして、まだヴォトカの入ったグラスを取り上げた。どのような苦情を言われるかと身構えたが、当事者に苦言を呈する余裕はなかったようで、そのままテーブルへ突っ伏して眠り込んでしまっていた。両者ともに知らずのうちに声量が上がっていたためか、ウエイターたちが遠巻きに二人を眺めていた。オーベルシュタインとしても、ぜひとも眺める側に回りたかったが、この事態に至った責任の一端が自分にあることは自明の理であった。理性の残っている方が事態を収拾するよりほかない。水をひと口飲みこんで呼吸を整えると、部下の肩を小さく揺すった。
「起きろ、フェルナー。私を送ってくれるのではなかったのか」
うーんという唸り声のほかは、何の反応もなかった。
「フェルナー、風邪を引くぞ」
やや強めに揺すると、ちらりと瞼を上げてうつろな視線を向けてくる。
「フェルナー……私が悪かった。卿には感謝している。次回はうまい酒にするから、起きてくれぬか」
「うまい酒ですかぁ?」
重要な部分は聞き流して、彼の中では重要だったのであろう部分を反復する。徐々に瞼が開き、上官の顔が視界に入った。
「あれぇ、閣下だ。どうしてこんなところにぃ?」
先ほどまでの口論が嘘のように嬉しげな表情で、オーベルシュタインの肩をドンと叩いてから、満足したように再び突っ伏してしまった。加減なく振り下ろされた腕は想定外の勢いであり、オーベルシュタインはしばらくのあいだ激痛に目を白黒させる羽目となった。
「仕方のない……。これでは、たとえ目を覚ましても一人では帰れぬだろうな」
溜息まじりにそう呟くと、オーベルシュタインはウエイターを呼んで会計とタクシーの手配を依頼した。
「卿の車は、明日ここへ取りに来るのだぞ」
そう言って立ち上がると、フェルナーを担ぐように支えて店の出口へと向かう。正体を失くしたフェルナーはオーベルシュタインの肩に腕を絡めたまま、ほぼ意識を手放している。やっとのことで出口まで辿り着き、タクシーの助手席へドサリと部下の体を解放した。自分は運転席に腰を下ろし、高級士官用官舎の住所を入力する。電気化されて久しい地上車は、音もなく走り出した。
「また眠ってしまったか」
小さないびきをかき始めた部下を見やって、オーベルシュタインは呟いた。自身の着て来た外套を、部下の体へと掛けてやる。銀色の髪が薄暗い街灯に照らされて、時折艶やかに輝いた。思えば、この部下は自分より遥かに年若いのだ。整った顔立ちのせいか、眠った顔は驚くほどあどけない。この彼が、自分にとって最も信頼に値する……少
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