Frohe Weihnachten !!〜聖夜の杯〜
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度には作られている。
「閣下の自宅は、と」
目的地を入力して自動運転に切り替えようとするフェルナーの後ろから、上官の手が伸びた。
「世話をかけるな」
行き先を入力すると、ゆったりとしたシートに体を沈めて深く息を吐く。静かに走り出した地上車は、官庁街からバスターミナルの通りを経て、華やかな飲食店が軒を連ねる市街地へと出た。店や街路樹のそこここに、煌びやかな装飾が施されている。
「ずいぶんと賑やかだな」
見慣れぬ賑わいに目を見張って、オーベルシュタインは怪訝そうに呟いた。フェルナーもはてと首をかしげたが、地上車のデジタル時計で日時を確認して得心がいった。
「大昔、この季節はキリストの生誕祭をしていたそうです。キリスト教が絶えた後も、祭の風習のみがしばらく存在したようですが、やがて滅んでしまったようです。それが、フェザーンには今でも残っていると耳にしたことがありますので、おそらくこの派手な装飾も……」
フェルナーの説明に、オーベルシュタインも納得したように肯く。
「商魂逞しいフェザーン人は、滅んだ宗教さえも商売の道具にするというわけか」
「そういったところでしょうな」
他愛ないやり取りを交わして、しばらく二人は黙ったままイルミネーションの明かりに照らされていた。やがて地上車が緩やかに速度を落とし、食事や買い物を楽しむ人々のための有料パーキングに入った。
「コンピュータの故障でしょうか」
フェルナーが不思議そうに眉を寄せて操作卓を叩くのを、オーベルシュタインは小さく笑いながら眺めた。
「コンピュータのせいではない。……ついて来てもらおうか」
オーベルシュタインは軍用コートの襟を立てて車から降りると、部下の方を振り返ることもなく、しかし心なしかいつもよりゆっくりとした歩調で歩き出した。フェルナーも慌ててコートのボタンを留めると、スラリとした姿勢の良い上官の背中を追いかけた。
街は装飾だけでなく、明るい音楽でも道往く人の心を躍らせていた。巧みに人波をすり抜けていくオーベルシュタインを、ともすれば見失いそうになって、フェルナーはやや足を速めた。
「待って下さいよ、閣下」
呼びかけた途端に黒い背中が静止して、フェルナーをちらりと見やった。
「ここだ」
二人の目の前には、象牙色の外壁を主体とした落ち着いた雰囲気のレストランがあった。客の入りも良いようで、犬を連れた老夫婦が彼らの目の前を横切って、その店へと入って行った。義眼の軍務尚書は眩しげな表情をしてその店の方を示すと、ポカンとしているフェルナーを横目で促した。
「卿には苦労をかけている」
オーベルシュタインはまるで言い訳のようにそう呟いて、ついと目をそらすと、店の中へと入って行った。
「え?閣下?」
今日は追いかけてばかりだと内心で苦笑しながら、フェルナーも足早
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