Frohe Weihnachten !!〜聖夜の杯〜
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人分の軍用コートをロッカールームから持ち出し、一方を自分で羽織り、もう一方と鞄を手にして上官の帰り支度を待った。オーベルシュタインは引き出しと端末にパスロックをかけると、フェルナーからコートを受け取った。
「何度も言うようだが、卿が私を待つ必要はない」
歩き出しながら、すぐ後ろに続く部下へ呆れたように言葉を投げる。
「……はい」
フェルナーは早足の上官を追いながら苦笑した。上官のこの台詞こそ、必要のないものだからだ。そして上官の不要で棘のある発言は、大抵、謝辞の裏返しであることをフェルナーは知っている。
「素直でないお人だからな」
フェルナーの独り言を聞きとったか定かではないが、オーベルシュタインは黙々と軍務省の玄関口へ向かった。
歩哨の手で玄関扉が開かれると、一気に真冬の寒気が軍用コートの隙間から体の隅々へと忍び込んできた。
「確かに冷えるな」
黒革の手袋をしたオーベルシュタインは、まるで冷え切った空気を咎めるように呟いた。吐息が白く二人の前を曇らせ、より一層寒さを実感させる。
「閣下のお車はどちらに?」
通常であればオーベルシュタインがここへ辿り着く前に待機しているはずの、高級士官用の軍の地上車が見当たらず、フェルナーは首をかしげた。
「今日は帰るつもりがなかったから、いらぬと伝えてしまった。……歩いても大した距離ではない」
そう言って歩き出そうとする上官を、フェルナーは目を剥いて引きとめた。
「お待ち下さい。お屋敷まで、閣下の足でも30分はかかるでしょう。この寒さですし、今日は小官の車でお送りしましょう」
がしりと左腕を掴まれたオーベルシュタインは、迷惑そうにお節介な部下を睨みつけながら、溜息まじりに小さく首を振った。
「無用だ」
それ以上説明する気もないのか、フェルナーの手を振りほどいて進行方向に向き直る。「では」と右手を掲げると、視界に白いものが映り込んだ。
「ああ、閣下、雪ですよ」
フェルナーが頭上を見上げて声を上げる。降り始めたばかりの雪は、たちまち花吹雪のように乱れ散り、二人の肩を濡らした。
「帝都では、あまり見なかったな」
オーベルシュタインも顔を上げて、街灯の下に舞う綿色の花びらを眺めた。その横顔が、雪の中に溶けてしまいそうなほどに白く、フェルナーは密かに戦慄が走るのを感じた。
「このまま30分も歩けば濡れてしまいますよ。今日は大人しく、小官の車でお帰り下さい」
しばし呆けたように目を細めて空を見上げる上官に、銀髪の部下は柔らかく言って自らの駐車スペースへと促した。
「ああ」
今度はさしたる抵抗も受けず、冷徹非道と名高い軍務尚書は部下の地上車の後部座席へと乗り込んだ。普段オーベルシュタインが使用している地上車に比べれば、遥かに安くて小さいが、長身の二人が窮屈しない程
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