Frohe Weihnachten !!〜聖夜の杯〜
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する。
「閣下、無防備ですよ。私でなかったらどうなさるおつもりですか」
揶揄するように微笑む銀髪の部下に、オーベルシュタインはようやく顔を上げた。
「卿であることは分かっていた。ゆえに、確認の必要がなかっただけのことだ」
ちらりと部下の表情を見やってから、すでに視線の先は手元の書類へ戻っている。
「おや、閣下には小官の足音がお分かりになるのですか」
まるで猫のようですねと言いかけたところで、冷たい否定の言葉が浴びせられる。
「卿のぼやきが聞こえた」
入り口で様子をうかがっていた秘書官のシュルツが、笑いをかみ殺す。フェルナーは憮然としながらも、
「失礼いたしました、以後気をつけます」
と、軽く頭を下げた。
「いや……」
オーベルシュタインは再び顔を上げ、視線だけで秘書官を退室させると、両手を顎の下で組んだ。
「卿にかかる負担は承知しているつもりだ。今日のところは帰ったらどうだ」
抑揚のない労いの言葉を吐く当人が、ひどく覇気のない表情だった。元々細い指も滑らかさが失われており、目元のくまや深く刻み込まれた眉間の皺が、あからさまな疲労の色を感じさせる。
「閣下が残られるのに、小官が帰ろうなどとは思っておりません。ですが、閣下もそろそろお帰りになられてはいかがですか。失礼ですが、このところまともに帰宅していらっしゃらないでしょう」
上官は答えずに手元の書類をめくった。フェルナーはしばらくオーベルシュタインの返答を待ったが、やがて上官の背後にある大窓へと目を向けた。
官庁街は思いのほか静かである。付近のビルの灯りは疾うに消えており、帰宅を急ぐ省員たちの姿もまばらであった。その数少ない道行く人々は、皆一様に首をすぼめて外套の襟を立てている。
「今日は寒そうですよ。これ以上遅くなったら、お身体に応えるでしょう」
僅かに身を乗り出して、オーベルシュタインのめくろうとした書類に手を置いて言う。口元は微笑んでいたが、鋭い瞳は真剣そのものだった。
「……老体には応えると言いたいのか」
顔の筋肉は微塵も動かさず、視線だけをフェルナーへ向ける。フェルナーもまた、その挑戦的な表情のまま上官を見つめた。
「ご冗談を。三日以上もほぼ徹夜で仕事をこなされ、しかも作業効率を落とさない方に、老体とは申せません。……ですがそろそろ、『人間』には限界なのではと愚考したまでです」
「……。」
書類の上の手をどかす様子のない部下に、軽く溜息を漏らす。その後に続く言葉を、フェルナーはほぼ正確に予測していた。
「分かった、卿の助言にしたがおう。ゆえに、卿も早々に帰宅するように」
ほとんど動かすことのない頬の筋肉を微かに上げて、オーベルシュタインは口うるさい部下へと言い置いた。
「承知しました」
手早く書類をしまい込む上官を横目で見ながら、フェルナーは二
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