第六十一話 図書館でその六
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「人の出来ることは限られています」
「そうですね、ですが」
「それでもですね」
「人が出来ることは限られていても」
それでもだというのだ。
「出来る限りのことをしなければなりません」
「貴方は彼等の為に学校を立ち上がてですか」
「そのうえで育てていきたいのです」
「高潔ですね。ですが」
「剣士として戦いそれを手に入れることはですね」
「間違っています」
大石は悲しい目で高代を見て告げた。
「それはとても」
「そうであってもです」
自覚はしていた、それでもだった。
「私は私の夢、そして彼等の為に」
「戦われますか」
「口で何を言ってもはじまらないのです」
熱さはあえて出していない、それを確かな強さに換えての言葉だった。
「ですから」
「例え貴方が間違っていても。その過ちで地獄に落ちようとも」
「地獄にも喜んで落ちます」
迷いはなかった、彼もまた。
「彼等を救う為なら」
「貴方はご自身が血に塗れてもいいのですね」
「それで彼等が救われるなら迷いません」
「罪を犯すということも時として犠牲ですが」
「私は自分を犠牲者とは思っていません」
それはないというのだ。
「願いを適えるのですから」
「だからこそですか」
「私は犠牲にならず己の願いを適えます」
はっきりと言い切った。
「そうします」
「そうですか」
「日曜に」
その日にだというのだ。
「残るのは私だけです」
「貴方の理想は素晴らしいです、しかし戦われるのなら」
「どうしてもですね」
「貴方を血に塗らさせはしません」
その願いの素晴らしさ故にだというのだ。
「決して」
「お気遣いでしょうか」
「そうなるかも知れません。ですが」
「ですがとは」
「貴方のその願いにはです」
それ自体を見ての言葉だ。
「血は似合いません」
「だからですか」
「はい、貴方の手はどうやらその子達を導くもの」
だからだというのだ。
「戦い血で塗れるものではありません」
「そうですか」
「血に塗れた手で子供達を導けるのでしょうか」
「人を殺してですか」
「それについてはどう思われますか」
「それは」
珍しいことだった、高代はその言葉を止めた。
そしてそのうえで沈黙に入ろうとする、だがだった。
彼は意を決した顔になってそのうえで大石のその問いに答えた。
「間違っているでしょう」
「そうですね」
「私は言うならば彼等を生かすことを考えているのですから」
「教育、即ちですね」
「人を生かすことです」
それに他ならないというのだ。
「ですから」
「そうですね」
「はい、そうです」
だからだというのだ。
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