雛は現実を知る
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別の正論を並べられると反発する。客観的に見ることも不可能になる。
宗教などがいい例だ。黄巾も同じだった。
最初は正義を掲げても、時間が経つと歪んでくる。
理想だけが独り歩きを始め、追いつこうと必死になり、さらに周りが見えなくなる。
だから現状の理解と自身の把握を求めた。
直接言うと拒絶が起こり、何故理解しようとしないのかをこちらに説いて、取り込もうとしてくる。
こういうものを変えるにはゆっくりと一つ一つ気付かせて理解させるか、非情な現実の袋小路に追い詰めて心を叩き伏せるしかない。
俺が行っているのは前者。
これは臣下の者達限定だが、桃香自身に妄信している場合は桃香自身が変わらなければまず不可能だろう。歪みを見つけても目に入らないものと認識してしまう。少しでも疑問を持ったのなら救いがあるが。
桃香自身のように理想に妄信している場合はまだ気付きやすい。歪みを理解しながら目を逸らしてしまうから。
まだ様子を見る。
今回は正しかろうとそうじゃなかろうと普通の兵とぶつかることになるんだ。強制的に後者の状況になる。
言い方は悪いが董卓軍には王の成長の生贄になってもらう。さすがに桃香も理想の穴と自身の矛盾した発言を自覚するだろう。
話し合いすら行えない状況ではなかったのだから。兵も守るべき民であるのだから。
もし気付かなかったら……
いや、やめておこう。信じているさ。
突然、コンコンとノックの音が響き、潜っていた思考から抜け出した。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは自軍の軍師の一人。雛里が一人でこんな時間に会いに来るとは珍しい。しかも様子が明らかにおかしかった。
「どうした? 元気がないな」
表情が暗く、声に反応して上げた瞳には絶望が宿っている。お前はまさか――
「……私たちは愚か者ですか?」
気付いたんだな。聡い子だ、全て理解しただろう。
「……」
無言の返答を行うと彼女はぐぐっと眉を寄せ泣き顔に変わった。
「っ! 私たちは……道化ですか?」
ああ、乱世に踊る道化だな。
思っていても口には出さず、さらに無言で見つめ続ける。
「わ、私たちは……なんのために……」
そこから先は言葉を続ける事が出来ないようだった。
「雛里、思考を止めるな。俺たちは所詮殺人者だ。自分の覚悟を思い出せ」
少し厳しめに彼女に言い放つと目線が揺れ始め、何かに縋ろうと手が伸ばされた。その手をとって続ける。
「確認して、考えるんだ。お前はどうしたい?」
「……争いのない優しい世を、作りたい、です」
「そこが笑顔だけじゃなくても?」
聞き返すとコクリと頷いた。その目には涙が溢れ初め、頬から床へと次々に落ちて行く。
「俺たちは繋ぐしかない。この先、何千年先にいつか笑顔溢れ
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