後編
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リと肩を落とす。
「…俺、」
「いいんだ。フジワラノサイは、君にとってそれほど大事ということなんだろう?」
だから、焦らなくても良いと。僕はそう言うしかできない。
「うん。うん…」
進藤はそのままうつむいてしまい、その特徴的な金色の前髪が顔にかかって、どんな顔をしているかわからない。
彼の言葉を待つ傍ら、ふと碁盤を見やる。その碁盤は見たところ年季もので、木が所々朽ちていた。それでも古めかしさをあまり感じないのは、よく手入れされているからだろう。他の収蔵品に比べて見ても、この碁盤には埃一つ付いていない。きっと、進藤の祖父が、孫の思いを汲んで大事にしているのだ。
そうして碁盤を観察していた事を知ってか知らずか、進藤の手が、碁盤を撫ぜる。
「…これが、全てのはじまりなんだ」
進藤は、努めて明るく声を出していた先ほどと変わり、静かに言葉を紡ぎだしていた。
「この蔵は、アイツと出会った場所なんだ。小学生のとき、俺、じーちゃんにも内緒でここに忍び込んでさ。小遣い稼ぎにお宝を探そうと思ったんだ。はは、とんでもないクソガキだよな。…それで、この碁盤を見つけて、それで、それで……」
彼は言ったのだ。
「佐為は、幽霊だったよ」
口の中にひそませるように、呟く彼の言葉は、不思議な力強さをもって断じられ、確かに、僕の耳へ届いた。
「碁が好きで好きで仕方ないって。そんな奴だった。死んでも、碁を打つの、諦められなくて。碁を何にも知らない俺にまで憑いちまうぐらい。・・・藤原佐為は、俺たちと別の時代を生きた、一人の棋士だったよ」
考えもしなかった真実に、思わず呟く。
「本当に、秀策ではないんだな・・・」
「佐為が、俺に憑く前憑いてたんだ。…碁、何にも知らなかった俺と違って、虎次郎は佐為に打たせてやってたから。だから、あれは全部、佐為なんだ」
僕は、言葉を失っていた。
「嘘だって思うか?」
「いや…」
「別に、信じる信じないは、いいんだ。…これ以上話せることはないし。それより、俺がこうして、佐為について話す気になったのは。俺はずっと、お前に言いたい事があったからなんだ」
雫の落ちる音がする。
「もう佐為はいない」
僕は隣を見やり、息を飲んだ。
「どんなに、お前や、お前の親父さんや、緒方さんや、誰が望んでも、もう、いない。いないんだ」
「進藤」
進藤は、静かに涙を流していた。
「はは。もう、こんなに経ってるのに。まだ、俺…」
察するに、僕が思っているより随分前に、フジワラノサイはこの世を去っていたのだろう。
「…そうか。……彼はもう、いないのか」
オウム返しのようにしか答えられない僕に、それでも進藤はうなずいた。何度も、何度も。
進藤は顔
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