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浮橋
後編
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えにくかったら無言でも。イエス・ノーだけでもいいから」
「お、おう」
 話の主導権を譲ってもらえはしたものの、向かい合う進藤は体を強張らせていて、見る限りでは、話そうという意思が見受けられないのだが。
「今まで僕に届けてくれたあの棋譜は、今日話すことに関係ある?」
 僕の言葉に、少しはほっとしたようだった。
「イエス」
「今日は君にとって特別な日?」
「イエス」
「君のお祖父さんには、この後、挨拶させてくれる?」
「…お前、そういうところ、どうにかした方がいいぞ。イエス」
 そう悪態をつきながらも、受け答えをするうちに、少し顔の強張りが緩んだように感じる。
「君が碁をはじめたのは、あの棋譜の打ち手と関係ある?」
「…いえす。というか、そうじゃなきゃ一生碁に縁がなかった」
「あの棋譜の打ち手は、ネット碁しかできない?」
「うーんイエス?…非公式?というか、そこらへんでならちょいちょい」
「あの棋譜の打ち手は、僕と打ったことがある?」
「……打ち切らなかったものを含めて、5回、打ってる」
「僕の父とは」
「……三回」
 自分からそこまで話せるようであれば、ここからは。
「先ほど、『やはりいない』というようなことを、口走ったのは?」
 イエス・ノーで答えられないことを試しに投げかけてみる。
 すると、やっと緩んでいた緊張が一気に張り詰めてしまった。僕はやれやれと、また質問を戻す。
「その碁盤は、今日の話に関係ある?」
「…うん、大アリ」
 進藤は、一つ溜息をついて、碁盤を自身の方に引き寄せた。
「…悪ィ。向かい合って話すの、何か話しにくいや。隣来て」
 僕は立ち上がり、碁盤を挟んで、隣に腰を下ろす。そうすると、進藤が自分で言っていたように、少しは張り詰めていた空気が和らいだようだった。
「何から話したらいいかわかんなかったけど。そうだな、お前から聞きながら話せばいいよな。なあ、何から聞きたい?」
 進藤はそう言うものの、まだ聞ける様子じゃないと見計らう。
「…saiの本名」
 であるから、それは、特別知りたいと思っていた訳ではなく、あるという確証もなかった。便宜上、今後話を進める上で、名前が欲しかっただけだ。ネット上の名saiとの呼び分けのために。
 しかし進藤は即答する。
「藤原佐為」
「フジワラノ、sai?」
「うん。それがアイツの名前」
 それは、予想だにしない返答だった。だからあの名を言ってしまった。
「本因坊秀策ではなく?」
「…あ」
 そっか、そこからだよなあ。進藤は一人頷き、独り言つ。それから、また、黙りこんでしまった。進藤自身、この状況はもどかしいらしく、思い切り後ろ頭を掻いたかと思うと、ガック
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