前編
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ていた。棋譜によっては、対戦者本人のコメントや管理人の考察が載っている。棋譜ばかりでなく掲示板やチャットが設置されており、logとして交わした議論の内容なども整理しているようだ。生憎、僕は棋譜に目を通し終えると閉じてしまって、ネット上でどんな見解が繰り広げられているのかは疎い。
しばらく見ない間に見やすくなっていた。追加されていた棋譜に気付き開いてみたが、内容を目で追う前に、思い直してすぐ閉じた。進藤に返事を書く。「そのサイトはすでに目を通してある」
最近送られる棋譜は、紙がよれている。きっと、随分前に書いていたのだろう。そんな棋譜が届けられると同時に、見慣れた打ち手の1人は影を潜めた。その空いた席を埋める対戦者は、棋譜ごとに違う。今まで継続して見てきた棋譜は、脈々と続く一筋の道を感ずるところがあり、一言で言うと壮絶だったが、これらの棋譜は、心が踊る。特に、ある二枚の棋譜は斬新だった。一枚目は中押しで終わり、二枚目になって、中押しとなった盤上を、劣勢だったはずの側が逆転していた。どうしてそんな打ち方をしたのか想像できなかったものの、たったこの二枚で、使用する石を交代したその様が分かり、さぞやこの対戦者は驚いただろうと、思わず笑みが零れた。
茶封筒が届かなくなった一ヶ月後、進藤は僕の家に訪れた。今まで送った棋譜を改めて見たいというのだ。棋譜を見届けた感想を言おうと、僕が口を開きかけた時、彼は慌てて言った。
「悪い!まだ聞きたくないんだ。まだ、先なんだ」
「・・・そうか」
謝罪の言葉を述べようとして、しかしまた彼は声を被せる。
「いやさ、本当はもう話すべきだし。・・・俺だってこれを始めた時は、全部送り終わったらって思ってたんだ。けど、なんだか上手く言える自信がなくなってきて・・・」
やっぱ、ちゃんと学校に通って、国語を人並みできるようになるべきだったな。そんな冗談を彼は言う。
「ごめんな。勝手に月一にして長引かせたりもしちゃったし」
「そんな事はいい。君のおかげで、忍耐には自信がある」
「嫌味かよ!」
会話もそこそこにし、彼が棋譜を見るのに没頭し始める前に、居間で待っている旨を伝えて、書斎を後にする。
正直、とうとう真実を知れるものと期待していたのが本音だ。一体いつまで待たせるつもりなんだ、あの馬鹿は。思い馳せると、もうすぐ五年が経つ頃だ。来たるべき日は過ぎた。進藤のやった事は正しい。自信をもて。あらゆる憶測も、あらゆる妄想も、あの棋譜の前ではなす術がなかった。最早、手立ては、進藤の口から語られる真実のみだ。もう何も残されていない。
何だか随分ぐったりしてしまって、僕はソファへ寝そべった。思った以上に、この日について緊張していたようだ。
体が揺さぶられた。自分を呼ぶ声が聞こえる。瞼を開いて、ああ眠ってしまっていたと気
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