前編
[2/4]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
うが、不思議と鉢合わせる事は無い)、茶封筒は丁寧に糊付けされるようになった。おかげで、ペーパーナイフが使い物にならない事が多い。切手が斜めになっていたり、宛名の字が頼りなかったり、彼は相変わらずのようだ。
自分でも甲斐甲斐しいと苦笑してしまうが、僕はこの棋譜を保存するために、事務用品のカタログをチェックまでして、書類ケースを購入してしまった。悔しいので、後々、機会があれば、彼へ料金を請求しようかと考えている。
整理といえば、封筒に受け取った日時を記し、引き出しの中へ重ねて入れる程度であり、管理といえば、引き出しの錠を落とし、その鍵をキーケースへ入れ、持ち歩く程度だった。簡易金庫を購入し、そこへ鍵を仕舞うぐらいで事は足りたのだろうが、あの棋譜に関連する全てを家に置き去りにしては忍びなかった。持ち歩いているのは、いわばお守りだ。この鍵を落としたとて、僕は慌てもしなかっただろう。その程度の鍵だった。家に足を踏み入れた誰かがふと、目に触れるような事を防ぐ程度であれば良い。
茶封筒は、進藤がうっかりでもしない限り、周期を保って引き出しを埋めた。「二人」はどのぐらい対戦を重ねていたのだろう。引き出しの容量が心配だ。僕はもう一台同じ書類ケースを購入した。また、これを機に、居間の片隅に置いていた書類ケースを書斎へ移動する事にした。以前購入した際に確認した大きさを忘れていたが、今や両方を横に並べ、幅140、奥行37、高さ120cmだった。随分部屋の幅を取るが、上を棚代わりにして物を置く気にはなれない。本棚やデスクなど、家具は木製で揃えていたので、部屋に、書類ケースの、スチールのフォルムはそぐわないように見えた。
かれこれ数年経ち、お互い忙しい身となり、顔を合わせる機会は少なくなった。しかし時代は進み、棋譜のデジタル化も進んでいる今、ソーシャルネットワークは発達して、お互いの活動を気軽に確認できるようになっていた。それでも、依然として茶封筒は郵便受けに届けられる。今や、その周期は一ヶ月に一度だ。
その月、とうとう茶封筒は届かず、訝しんでいると、ソーシャルネットワークを通してメッセージが届いている事に気付いた。届いている日付は二日前である。月の終わる一日前に出してくれていたらしい。
『このサイト見つけた時にゃ感動した!!全部目ぇ通せよ。』
文面に呆れつつ、記されたURLをクリックする。そのサイトはシンプルな体裁をしていて、上部には大きくタイトルが掲げられていた。「saiデータベース」。
僕はこのサイトを知っていた。僕が見つけたのは、進藤から茶封筒を渡されるようになって、一年経つぐらいだったろう。このサイトは、saiに魅せられた1人の人物が立ち上げたのが事の始まり。それから不特定多数の人の手によって次々と対戦記録が持ち寄られ、自由に棋譜が見れるようになっ
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ