第二章
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ら考えがあるんだけれどよ」
「何がだよ」
俺は缶ビールを飲みながらそいつに尋ねた。
「どっかにでも行くのか?」
「ああ、そうさ」
それでこう俺に言ってきた。
「俺、この商売止めようと思ってるんだ」
「止めるのか」
「ああ」
俯いて。少し思い詰めた顔での言葉だった。
「何だかんだで悪事だよな、これって」
「まあそうだな」
そんなことは百も承知だった。これで壊れる奴がいるのもわかってる。けれどこれも生きる為、金の為だ。少なくとも俺はそう割り切ってやってきた。
「だから。足を洗おうと思ってるんだ」
「足を洗ってこの街を出るのか」
「ここにいる限り足洗えないだろ」
そいつは言った。
「だからさ。ここを出て真面目に暮らそうと思ってるんだよ、俺」
「真面目にっていうとあれか」
俺は少し茶化して言ってやった。ビールを飲みながら。
「タイヤ工場とかで働くのか?デトロイトとかの」
「悪くないな」
「おいおい」
思わず笑って突っ込みを入れた。
「マジかよ。金なんて全然入らないぜ」
少なくとも今やってるヤクの売人よりはずっとだ。それがわかってるからはっきり言ってやった。
「それでもいいのかよ」
「いいさ。とにかくもうこの仕事から足を洗いたいんだ」
「本気なんだな」
「ああ」
思い詰めた顔で答えてきた。
「考えたけれどな」
「そうか。本気か」
「本当にこの仕事辞めようぜ」
俺にも言ってきた。
「それでせめて人様に迷惑かけないでやっていこうぜ」
「迷惑をか」
「ヤクで壊れた奴ばっかりだからな」
特にスラムじゃそうだ。どいつもこいつも酒かそれに溺れて廃人になっちまうか撃ち合ったり刺し合ったりで次から次にくたばっていく。それがスラムだ。
「そういうのから離れたくなったんだよ」
「金はいらないんだな」
「もう。いいさ」
言った。はっきりと。
「俺の金は寄付しようと思ってる。せめてもの罪滅ぼしにな」
「汚れた金はもういいってわけか」
「奇麗事かな」
「まあそうだな」
本気でそう思った。俺達の商売じゃ何もかもわかってることだ。壊れる奴がいるのも売って手に入る金が汚れてるのも。全部わかってることだった。
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