変化の意味
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いはずだ』
拳を握りしめれば、懐かしい隊長の言葉が頭によぎる。
まだ遅くはないのだろうか。
いや……。
いまだ続く訓練の様子を見ながら、バセットは立ち上がった。
悩んでいる時間など、もはやない。
+ + +
形ばかりの執務室。
およそ数畳程度におかれた机に、乱雑に並ぶ書類。
訓練報告をコンピュータにまとめながら、アレスはノックの音に顔をあげた。
「どうぞ」
扉を確認もせず言葉を発せば、ぎこちなく扉が開いた。
グレン・バセットだ。
初めて入る室内に、戸惑ったように周囲を見渡している。
キーボードを叩く音が断続的に響く中で、アレスから言葉は振られない。
ただ鳴り響く音に、バセットは頭をかいた。
「小隊長殿。お話があります」
「そうだろうね。ここにきて、遊びに来たと言われたら困る」
「でしょうね」
アレスの冗談に小さく頬を緩めて、すぐに真剣な表情を作った。
「俺を第二分隊長に戻してください」
「昨日の今日だぞ」
「ええ。今日一日小隊長の分隊指揮を見させていただきました」
「無様だと笑いに?」
「いや。雪だるまには笑わせてもらいましたが」
首を振り、バセットはアレスに近づいた。
「小隊長には小隊の指揮をとっていただきたい。第二分隊の指揮は私に任せていただきたいのです」
「それを任せられないから解任したのだけれど」
キーボードから手を離して、アレスが顔をあげる。
穏やかな様子はない。
しっかりとした視線に、バセットは怯むことなく、背筋を伸ばした。
「カッセル軍曹からあいている時間に陸戦について、教えてもらえるように伝えました。私も一からやり直すつもりで、部隊をまとめたいと思います」
「やる気が出たのは嬉しい。が、おいそれと任せるわけにはいかないだろう」
「これを」
机の上におかれたのは、一辺の紙だった。
退役願。
そう書かれた紙には、バセットのサインも入っている。
このままアレスがサインを入れて、上にあげれば、バセットは退役する事になる。
ヤンのように上から懇願されるわけでなければ、結果は一カ月と待たずに決まるだろう。
「もし私が無様であるならば、それを提出してください。代わりの分隊長がすぐに送られるでしょう」
「いいのか。覚悟にしては、随分な代償だぞ。俺の気持ち次第で君は辞めることになる。俺を信頼していいのか」
アレスは手にしていた退役願から手を離した。
ひらひらと落ちる紙に、バセットは力強く頷いた。
「正直なところ、信頼はしておりません。ですが、私をタダで信頼しろといったところで、無理な話でしょう。もし信頼が裏切られるというのでれば、私はそれまでの人間だった。全ては小隊
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