変化の意味
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から見れば分かるが、近ければ人や攻撃が壁になって把握しづらいのだろう。
それでもバセットは例え戦場にいても、それを理解できただろう。
敵の右側に少数の部隊を派遣して撹乱。
一部が正面から特攻して、圧力を強める。
敵が正面の圧力に兵を固めれば、右側の兵でさらに攻め立てる。
「正面にそんな兵を集中させりゃ――」
案の定、第二分隊の一部が兵を回り込ませていた。
正面に集中しているアレス達は気付かない。
あまりのあっけなさにため息を吐きかけた、その時――。
回り込んでいた兵が滑った。
一部の雪原を水で濡らして、氷にしていたのだろう。
見事に転んだ兵士はごろごろと雪だるまのようになりながら、敵の正面へと戻っていく。
「おいおい」
その隙にと、アレス達が走りだした。
敵の攻撃が苛烈になるが、それらは全て雪だるまとなった兵士に降り注ぐ。
「ばかか。こんな戦いが現実にあってたまるか」
兵士を巻き込んだ雪だるまを押しながら壁にするという、異様な光景にバセットは笑いを漏らした。
戦場であればあり得ない。
何か楽しそうだなぁ。
やめてくれと叫ぶ雪だるまには容赦なく攻撃が降り注ぐ。
アレスの部隊だけではなく、第二分隊――カッセルまで大笑いしている。
そんな光景が今まであっただろうか。
訓練中に笑う事など。
いや、昔はあったかもしれない。
サハロフ隊長の訓練は厳しい。
だが、時にはこのように全員が笑うこともあった。
あの時は射撃訓練で最下位が看護師の女装をして、全員にチョコレートを渡すとか罰ゲームがあった時だろうか。最下位争いで醜い戦いを繰り広げる様子を、仲間たちは誰もが楽しそうに笑っていた。
「ははっ」
笑えば頬にしびれるような痛みを感じた。
ああ、そうだ。
訓練中に笑うことも久し振りであったならば、殴られる痛みも久しいことだ。
昔を懐かしいと思うあまり、結局――グレン・バセットは何もしてこなかった。
仲間達と笑うこともない。
上官と喧嘩をすることもない。
ただ愚痴をいって、辞めることもせずに、漫然と。
「馬鹿か、俺は」
小さく漏れた言葉は、声にはならない。
あのガキは――アレス・マクワイルドは常にかえようと努力している。
陸戦を知らないと思えば、陸戦を知る者に教えをこうた。
部隊については、ブリザードが吹きつける環境で、ただじっと兵を把握するために見守った。
防寒着を着ていても、寒くないわけではない。
それを一カ月も何も言わずに、ずっと見ていたのだ。
情けない。
俺はこんなところで何をしている。
『もしかえたいと望むならば、お前がかえればいい。お前は若い――決して遅くはな
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