変化の意味
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酒臭い息を吐けば、バセットを見る目は厳しいものだ。
「お主は中途半端なのだよ。私らのように戦う覚悟がないわけではない。かといって、上の命令に従うのをよしとしない。戦う気がないように見せて、それでも愚痴だけは一人前。悪いのは上で、そして戦わない部下だ。そんな人間に誰がついていくと思うのかね」
「マクワイルド少尉なら上手くできるといいたいのですか」
「そうさな。彼は――いやはや、陸上戦の指揮などやったことはない。知識も机上だけのお粗末なものだ」
「でしょうな」
鼻で笑い、バセットはグラスのワインを口にした。
「だが。それでも成長はしている。知っているか、彼は五月に着任してより、一日も欠かさずに勤務終了後は私の部屋に来て、陸戦について話を聞いている。こんな老兵の昔話をな」
「ただ点数稼ぎですよ」
「私に教えを請うたところで何の点数になるというのかな」
カッセルの問いかけに、バセットは答えられない。
ただ苦そうにワインを空にして、置かれたワインボトルからワインを注いだ。
「彼の言葉を覚えているかな」
カッセルを見れば、決して冗談めかした表情はない。
真剣な二つの瞳が、バセットを覗きこんでいる。
グラスに口を付けかけて、やめる。
静かに机の上におけば、バセットは目を細くして思いだす。
忘れられるわけがない。
「私からも問おう。お主はこの五年間何をしてきたのだ」
「…………」
バセットは答える言葉をもたなかった。
上司と仲間を失い、ただ逃げてきた。
上を信じられないと言いながら、それを変えようと努力したわけでもない。
五年間を振り返って、思いだせるのはがむしゃらに走った戦場と酒。
その当時の上官も、仲間の顔すらも思いだせなかった。
だから、バセットはグラスをおいて立ち上がった。
その行動にカッセルも深くは問わなかった。
ただ自らのグラスに口をつけながら、バセットの行動を見守る。
「少し飲みすぎました。また明日」
「ああ。訓練で待ってるよ」
言葉に小さく笑い、バセットは食堂を後にする。
この五年間何をしてきたのか。
その言葉が心に重くのしかかった。
+ + +
「ああ。何て指揮をしてやがる、右側ががら空きじゃないか」
こうして、後ろから全体をみれば、戦場の様子が良く分かる。
攻め立てるカッセル率いる第二分隊の攻撃に、アレス率いる第一分隊は防戦一方の様子であった。
艦隊戦と陸上戦では同じ指揮でも、大きく違う。
艦隊戦が全てデータ化されて情報となるのであれば、陸上戦のそれらは全て勘によるところが大きい。
敵の攻勢が少ない事を肌で感じ、攻めるべき場所を予測する。
カッセルの右側ががら空きであることは、遠く
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