第一物語・後半-日来独立編-
第五十九章 解放《4》
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もう訪れることのない、家族と過ごした日々。
素直になれたなら、少しはマシな人生を歩めたのだろうか。素直になれば、この鼓動の意味も理解出来るのだろうか。
なあ、なんでこんなにも辛いんだろうな。
辛い。
ただの鼓動な筈なのに辛い。
辛い。
気持ちが吐き出せなくて辛い。
辛い。
好きになることが……辛い。
今、何か変な感じがした。
好きになることが、辛い。これは日来の長が言った言葉だ。
何故に今、心中でこの言葉が出てきたのか。
違うだろと思った。
今の自分は、
「好きになることが、辛い……?」
どういう意味なのか奏鳴は理解出来無い。
自分が口に出した言葉なのに、言葉の意味が解らなかった。
一方のセーランも始めは理解出来無かったが、後からその意味が解った。だからあえてこう言うのだ。
「だったら嫌いになるか?」
と。
決して素直になれとは口にしない。
これは自分で気付かなければ、意味が無いのだから。
奏鳴は顔を横に振り、否定する。
「解っているなら教えてくれ。どういうことなのだ」
「教えなくてもお前はもう解ってるんじゃねえのか。ただそれを認めなくて、意地張ってんだと思うんだよ」
差し出した手を引いて、代わりにセーランは言葉を放つ。
絶え間無く続く解放のなかで。
「それは自分自身で考えるべきだ。他人に言われたら、今のお前はそれに従う。辛いことだけど、それでいいと思うな」
「辛いのに、それでいいのか?」
「だってその辛さは苦しみから来たものじゃねえだろ? ならその辛さはきっといい意味の辛さだ」
「辛いのにいい意味も悪い意味も無いと思うんだが」
「でもさ、俺が奏鳴のために服選ぶ時、二着あるうちの一着だけを選ばなきゃいけないとしたら。その一着を捨てる辛さは悪いことなのか」
「あ、いや、それは。……違う、な」
頷き、
「だろ? なら奏鳴の今の辛さはいい意味の辛さだ。相手を好きになれるかどうか。それを決めてるんだ。悪いことじゃない」
「わ、私がお前のことを好き?」
いけなかった。
話したついでに余計なことも言ってしまった。
これでは後でとやかく言われるに違いないと、表情を変えずにセーランは内心焦った。だが、そんなセーランに気付かないまま。
奏鳴は同じ言葉を連呼していた。
「私が好きになった? 好き好き好き、あいつを好きに。好きになるとはどういうことだ、どうなった時に好きとなる」
一人言を話し、解放など今はどうでもいいようだった。
ただ好きということに対して、分からないことだらけで頭が混乱していた。
「ならこの胸の鼓動も好きになったから、それに関係しているのか? 好きになるということは、相手を欲するということと本に書いてあって……」
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