第一物語・後半-日来独立編-
第五十九章 解放《4》
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なければと焦り、あることを口にした。
「私は殺人者だ。それに余命はたったの五年だぞ」
「構わない。だって俺が好きなのはそんなところじゃない。奏鳴自身を好きになったんだ」
何故そんなに恥ずかしい言葉を言える。
皆が見て、聞いているのは分かっている。
そんななかで、こうもはっきりと発言出来て羨ましい。
「分からんのだ。どう返事を返したらいいのか」
返す言葉がなかったため、もうどうなってもいい。
この分からない気持ちを吐き出したい。
誰かこの気持ちを理解してくれる者がいるだろう。それを教えてくれる者がいるだろう。
「それに、この胸の鼓動はなんだ! 何故お前が話し掛けるとこうも鼓動は強くなる! 身体の底から熱くなり、気が付けば頭のなかはお前のことしか考えていない」
左胸に手を当て言う。
今もそうだ。
鼓動が強く脈を打ち、体温が高くなるのを感じる。
頬を赤めているのも知らず、奏鳴はセーランに分からぬ気持ちをぶつけた。
「お前と会わなかった前までは、こんなことは一度も無かった。なのに、日来でお前と会った時から何故か気が緩んだような感覚があった。
教えてくれ! この胸の鼓動はなんだ! どうしたら治まる!」
「なあ、奏鳴」
彼女だけに聞こえる声で。
手を差し出したまま。セーランは答えた。
「好きになるって、案外辛いものなんだぜ」
意味深な言葉に奏鳴は聞こえた。
答えてないようで答えている。
とても不思議な返しで、自分自身で考えろということなのだろうか。
解りそうで解らない。
すぐそこに答えがある筈なのに、手を伸ばせば届きそうな距離なのに。その距離はあまりにも遠いものだと感じてしまう。
考えれば考える程、底無し沼にはまったように脱け出せない。ただ沈んでいくだけだった。
●
『――素直になるって難しいものなの。あの厳格な父であってもね』
『あのおとーさまが?』
『そうよ。告白したのだって私の方からよ。あの人は素直になれない人でね、だから私のようなはっきりとものを言う女性と将来を誓いあったんじゃないかしら』
『わたしにもあらわれるかなあ、そんなひと』
『奏鳴は父に似て素直じゃないところがあるからねえ。でも、それを理解してくれる人がきっといる筈よ』
『ならそのひととけっこんする!』
『まあ、おませさんなんだから。そうね、そんな人と結婚出来るように頑張るわ』
『なんでおかーさまががんばるの?』
『だって奏鳴ったら本当に“素直”じゃないんですもの――』
●
急に思い出す、亡き母との会話。
何気無いその会話だったが、何故今思い出したのか。
父の話しをしていて、そして自分の話しに変わって。父と似て素直じゃないと言われていた。
あの日々が懐かしい。
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