第一物語・後半-日来独立編-
第五十九章 解放《4》
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無い。あるのならば解放の時を大人しく待っていた筈だ」
「……あ、ああ……」
肯定の返事ではない。
揺れ動いている。
奏鳴の意志が、天秤のように。
無意識に出た言葉ではない声。
心身共に疲れ切っている奏鳴にとって、自分に対する一言一言が胸に刺さる。
駄目だ。このままでは。
感じ取ったセーランは考えるよりも先に、手を奏鳴の手へと伸ばし、掴んだ。
距離もそれ程離れていないため、掴むには数歩刻んだだけだ。
柔らかい感触と共に、人肌特有の温かさを感じた。
「あ」
また出た、言葉では無い声。
右の手を掴まれていることに奏鳴は気付き、嫌なわけでもなかったが反射的に振り離そうと腕を振る。
だが離れることはなく、右手から伝わる体温に過剰に反応した。
照れ、赤面の顔を隠すように左側へ少し顔を向ける。
「びっくりしたか? へへ、ごめんな」
「気にするな。少し、驚いただけだ」
「可愛い」
余計に頬を赤める。
セーランにとってそれが可愛くてしょうがなく、弄りたい衝動に駆られる。だが今はその時ではない。
余計なことは話さず、手を握ったまま。
「お前と奏鳴は違う。お前は地域のために命を賭けるんなら、奏鳴は地域のために生きるべきなんだ。少なくとも俺はそう思うし、生きていてほしい」
「他人が口を出してくるな」
「嫌だね。俺はこいつの夫になるためにここへ来たんだ。今はまだ返事貰えてないけど、必ず貰うように努力する」
「そんな話しはしていない」
「なら黙ってろ。これからが本当に重要なんだからさ」
「何を!?」
だからセーランは央信を無視し、横に立つ奏鳴へと顔を向ける。後から身体も向け、視線に気付く奏鳴は頬を赤めたままセーランを見た。
微笑みなのか、それとも笑みなのか。
セーランの口は曲がっている。
これから何をやろうとするのか分からないため、セーラン以外皆は動かなかった。
様子見という選択を取ったのだ。
されど、間近にいる奏鳴は混乱している。
今はふざけている場合ではないのに、頭のなかが混乱していて物事を冷静に捉えられなくなっていた。
も、もももしかして接吻!? いや、ま、まま、ま、待て。まだ告白の返事もしてないぞ!? だがこの感じ、きっとそうだよな。だとしたら……本当にどうしよう。
手を握られ、変に体温が上がったことに気が付いていないだろうか。
顔が熱を持ったように熱く、火を吹きそうだ。
冷静でいろと自身に命令するが、一向に冷静になる気配はない。
全く経験したことのないことだ。
少しでも経験していれば返しが出来たのだろうが、如何せん今まで屋敷にいることが殆どだった。
話すのも基本同じ人達だ。
こうして赤の他人と触れ合うのは奏鳴にとっては初めてであり、
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