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愛と哀しみのラストショー
第五章
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第五章

「この夏が終わったらすぐに。それでもうすぐここから帰っちゃうんだってさ」
「そうなんだ」
「本当はずっと後で結婚する筈だったけれど向こうの事情があるらしくて」
「お金持ちの家だからね。許婚とかそんなのなのかな」
「多分ね。いいところのお嬢様らしいから」
「お嬢様ってのも大変よね」
「まああたし達にはお金を落としてくれるいい人達だけれどね」
「あはは、確かに」
 そこまで聞いて俺には大体の事情がわかった。だからあの時彼女は急に態度が変わったのだ。動揺して。急に別れ話を切り出したのもそれでわかった。
「今日にもここを出るらしいよ」
「また急ね」
「あたしもそう思うけれどね。まあそういう事情なんじゃないかな」
 俺はすぐに店の使いを終えた。それが終わるとその足で駅に向かった。自転車をありったけ飛ばして駅に向かった。線路が二本、プラットホームは一つの小さい駅だ。通る電車も少ない。けれどこの時ばかりはその電車が来ないことを祈った。いつもは何時来るんだと舌打ちばかりしているホームなのに。俺は向かった。
 駅に着いた。自転車はそこいらに置いて駅の中に入った。そこには彼女がいた。
「どうしてここに」
 俺の姿を認めて驚いた顔をしていた。あの白い服と帽子にトランクを持っていた。今にも去ろうとする姿だった。
「話を聞いたよ」
 俺は笑みを浮かべて彼女に言った。けれどその笑みはきっと寂しい笑みだったと思う。自分ではわかりはしない。
「結婚するんだってね」
「ええ」
 彼女は俯いた。そして小さい声で答えた。
「それもすぐに」
「そうよ」
 それにも答えた。駅には俺達の他は誰もいなかった。また二人だけの世界に戻れた。けれどその世界は今すぐにでも終わろうとしているのはわかっていた。それを感じながら話をした。
「本当は。ずっとこれからのことだったのに」
「許婚なんだってね」
「ええ」
 彼女はまた答えた。
「それ、俺に隠していたんだ」
「御免なさい」
「名前、変わるから。だから君じゃなくなるんだね」
「今の私は。もういなくなるから」
 彼女は言った。
「結婚するからだね」
「そうよ」
 その声が段々濡れたものになってきているのがわかった。
「この夏が終わったら。すぐにね」
「それまでの最後の思い出の為にここに来たんだ」
「そのつもりだったけれど」
 彼女は俯いたままだった。けれどその言葉はよく聞こえた。
「貴方に出会って」
 泣きだした。俺はそんな彼女にこう言ったのだ。
「馬鹿だね、泣くなよ」
 泣くことなんてなかったからだ。
「どんなことだってさ、終わりがあるんだ」
 俺だって辛くないと言えば嘘になる。けれどこの時はそんなことは我慢して言った。
「だからさ、気にすることなんてない
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