第四章
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したんだよ、一体」
「もうここには来れないの」
今にも泣きそうな顔でこう言った。
「来れないって」
「ここに来るのは私じゃなくなるから」
「訳のわからないこと言うな」
それがどういう意味なのか本当にわからなかった。
「どういうことなんだよ、それって」
「話せないの。けれど」
泣きそうな顔のまま言う。その時の顔は今でも覚えている。
「この夏で。いいえ、今別れましょう」
「別れるってよ」
俺はさらに訳がわからなくなった。
「何言ってるんだよ、急に」
「さよなら」
けれど彼女は俺の言葉を遮ってこう言った。
「楽しかったわ。けれど」
「さよならっておい」
「今まで一緒にいてくれて有り難う、けれどもう」
「終わりなのかよ、それで」
「御免なさい」
彼女はその目にうっすらと涙を浮かべていた。何か俺が悪者みたいな気になってきた。
こんな目をされちゃもう俺にはどうすることもできなかった。観念した。俺もその言葉を受け入れることにした。
「わかったよ」
俺は言った。
「じゃあこれでお別れだな。じゃあな」
「ええ」
もう俺に顔を向けはしなかった。顔を背けて答える。
俺はそこからは何も言わなかった。無言で彼女の別荘を出た。そのまま家へと帰って行った。どうにも腑に落ちるものじゃなかったがそれで納得するしかなかった。悔しいが認めるしかなかった。
急に夏が終わった気がした。空も海もまだ青いのに俺の夏は終わった。そう思うしかなかった。俺はそれからはまたいつもの夏に戻った。店を手伝って適当に遊ぶ。そうして気ままに生きることにした。どうせあれは夢だったんだ、そう思って自分で納得することにした。けれどそんな俺の耳にふとあることが耳に入って来た。
「ねえ聞いた?」
店の使いで道を歩いている時に地元の女子高生の話がふと耳に入った。部活か何かの帰りだったのだろう。夏休みだってのに制服を着ていた。白いカッターとチェックのミニスカートから見える脚が日の光を跳ね返してやけにまぶしかった。
「あそこの白い別荘だけれどね」
(白い別荘!?)92
俺はそれを聞いてまさかと思った。
「あそこにお嬢さんがいるよね」
「ああ、あの黒い髪の綺麗な人ね」
俺はそれを聞いて間違いないと思った。そして耳を凝らした。
「何でも結婚するらしいよ」
「へえ、そうなんだ」
(嘘だろ)
何とか表には出さなかったが動揺した。すぐには信じられない話だった。
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