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愛と哀しみのラストショー
第三章
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どうかしら」
「いや、これは」
 正直喫茶店の人間としちゃ複雑な気持ちだった。
「美味しいよ」
 けれど素直にこう答えた。ここまでいいケーキや紅茶なんてそうはないからだ。悔しいがそれは認めるしかなかった。
「とても」
「そう、よかったわ」
 彼女はそれを聞いて顔をほころばせた。
「喫茶店の人だから。何て言われるかわからなかったのよ」
「うちの店のより美味しいよ」
 俺は言った。
「こんな紅茶もケーキもそうそうないから」
「そうかしら」
「そうだよ」
 俺はまた言った。
「ここまで美味しいのは。そうはないよ」
「ふうん」
 だが彼女はそれがよくわかっていないようだった。
「そうかしら」
「舌が慣れてるのかな」
 俺はそう思った。
「だから。案外わからないのかも」
「私はそうは思わないけれど」
 けれど人間なんてのは自分のことは案外わからないものだ。彼女もそうかも知れない。
「けれど嬉しいわ。うちのお茶やケーキが美味しいって言ってくれて」
「それはどうも」
「飲んで。まだあるから」
「うん」
 俺達はお茶とケーキ、そしておしゃべりを楽しんだ。本当に何か違和感があったけれどそれも次第になくなってきた。そういうことが何回かこの別荘でも俺の店でもあった。俺達はどんどん親密になっていた。
「なあ」
 俺は浜辺で遊んでいた時に彼女に言った。
「来年もここに来るかな」
「それは」
 彼女はそれを言われると一瞬戸惑った顔を見せた。
「どうかな。何なら俺の方からそっちに行くけれど」
 俺はさらに言葉を続けた。
「またさ。一緒にいようよ」
「この夏だけじゃなくて?」
「そうさ」
 俺は答えた。
「また来てくれよ。それかずっとここに」
「ええ」
 けれどそれに答える彼女の顔は何処か寂しげだった。


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