プロローグ
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先手を打ってそう言った。
「・・・・・・・・・」
ジムはそれに答えられなかった。ただ突っ立っているだけだった。
「へっ」
俺はそれを見て思わず声を漏らした。そして煙草をアスファルトに擦り付け消してからジムに顔を向けた。煙草がやけにまずく感じられた。
「御前殴られてえのかよ」
「何言ってるんだよ」
ジムは俺にそう言われて眉を顰めさせた。
「何でそんな話になるんだ。俺は別にミッキーとは喧嘩しようとは思わないし」
「じゃあさっさと行けよ」
俺はたまりかねてそう言ってやった。
「俺が行っても何もなりゃしねえんだからな」
「・・・・・・いいんだな」
ジムは一言そう言った。
「ああ」
俺はそれに頷いてやった。
「好きにしな。さっさと行っちまえ」
「わかった」
ジムは頷くとヘルメットを被った。リーゼントの髪がその中に隠れる。
「じゃあ行って来る。ジェーンのところにな」
「早く行け」
俺はそう言ってやった。それから付け加えてやった。
「あの娘は御前を選んだんだよ」
「本当なんだよな」
「俺が嘘を言ったことがあるか?ねえだろ」
「それはわかってるよ」
「そういうことだ。あの娘はリムジンよりも御前のバックシートを選ぶだろうな。まあ俺達にはリムジンなんて夢みてえな話だけれどな」
これは本当のことだった。俺達みてえなダウンタウンでだべっている社会の落ち零れにはリムジンはとんと縁のないものだ。俺達にはバイクが似合っている。他にには何もいらねえ。
「俺のバイクでいいんだな」
「何度も言ってるだろ」
イライラする。半分怒った声でそう言ってやった。
「御前のハーレーが一番だってな」
「わかったよ」
やっと納得した。本当に骨が折れる奴だ。
「ぞれじゃあ。このハーレーで」
「気をつけろよ」
この時のこの言葉はいつもの挨拶だった。そう、挨拶の筈だった。だが俺はこの言葉を一生忘れられなくなった。忌々しささえ感じる程に。
そして奴は行った。爆音が闇の中遠くへ消えていく。そして流れ星のように去っていく。
「やっと行ったな」
俺はその音を聴き星を見ながらそう呟いた。こんなに人を行かせるのに苦労したのははじめてだった。
「マゴマゴしやがって。いつもよ」
そう言いながらまた懐から煙草を取り出す。気を鎮める為にはそれが必要だったからだ。
また吸う。そして口から煙を吐き出した。その白い煙がまた闇の中に消えていく。俺は煙草を吸いながら夜空を見上げていた。スモッグまみれのこの街でもこの時間には星が見える。
「流れ星か」
俺はその空に一つの流れ星を見つけた。それは白く尾を引いていた。
「あいつみてえだな」
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