帰り道、その男は
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、と、いってくれたんだ」
助けた命もまたある。
ふいに肩に雫が一つ落ち、私の服を小さく濡らした。頭を撫でる手は震えているようで、先程のように一定の速さでは無かった。
その手を、私はきゅっと握る。
今度は私の番。悩んでた時、戦場でも、温もりをくれたから、答えを見つけられた。
泣く場所をくれたから、壊れなかった、歪まなかった。
この人はきっとすでに答えを知っている。
私が泣いてたから我慢してただけ。
ただ気持ちを吐き出せなかっただけ。
「すまない」
すっと優しく抱きしめられる。暖かい、あの時みたいに鼓動を感じた。
「大丈夫です」
言い聞かせるように言ってから、抱きしめてくれている腕を撫で続ける。
押し殺して響く嗚咽を受け止めて、私は少し満たされた気持ちになっていた。
†
「ふむ、私はお邪魔虫……というわけか」
後ろの、一頭だけ行軍を外れた大きな馬を見ながら呟く。
戦場で雛里は壊れる寸前だったろう。あれは軍師の自分を作って守っていたのだと、戦を終えた頃に漸く気付いた。
秋斗殿はうまくやってくれたらしいが、やはりというべきか結局自分も壊れそうだったとは。
村の外で会った時は覚悟の籠った瞳に圧された。迷いを一切含まないその輝きはあまりに透き通っていて美しいとさえ感じた。
その後、初戦場ではありえないくらいの冷静さでここまで進めてきた。
感情の糸が切れても仕方ない。
しかしどうせなら私のような大人の胸の中で泣けばいいではないか。
少し、羨ましい。彼と同じ痛みを同じ時間に共有できているあの子が。私は何故戦場で譲った。
悔しい思いと羨ましい気持ちが綯い交ぜになって自身の心を支配していたが、そこでふとどうしてそんなモノが湧いて出るのかを理解してしまった。
あぁ、これが、これがそうなのか。
まだ気付いてない振りをしよう。この居心地のいい関係に浸っていよう。
いい気分だ。
帰ったら酒に付き合ってもらおう。
こんな辛い世の中でも、楽しいこともあるのだから。
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