第二章
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第二章
俺の方から別れを切り出して。俺の方から出て行ったのに。
それでも寂しい。人間なんて勝手なものだ。
一度家の前まで戻ってドアを叩いた。けれど返事はなかった。
「いないか」
家の中から気配は感じなかった。何処かに出ているらしい。けれどすぐにそれでよかったと思った。
「今更な」
雨の中で自嘲で笑った。俺に対してだ。
「許してもらおうとか会いたいとか。俺も勝手だよ」
それがわかったからその場を後にした。ふらりとまた彷徨いだした。
あてもなく歩き続け身体が冷えていく。その中で胸に下げているものに気付いた。
「あいつがくれた」
十字架だった。あいつが俺の誕生日にくれたものだ。そっと手をやって握ると完全に冷え切っていた。今の俺と全く同じようにだ。
十字架を握りながら目を閉じるとあいつの顔が思い浮かんだ。やっぱりそれも同じだった。
俺はその冷たい十字架を握り締めながらまた歩きはじめた。線路の下の落書きも滲んで暗がりの中で何て書いてあるかわかりはしない。だがそれが少し見えるようになってきた。
「夜が完全に終わるんだな」
それがわかった。世界が少しずつ白くなっていく。けれど雨はそのままだ。ずっとそのままだ。夜明けになっても雨音が聴こえてくる。俺はそれを聴きながら道の端にしゃがみ込んだ。濡れてももう構わなかった。とっくの昔に濡れそぼってどうしようもなくなっていたからだ。
「もういいさ」
諦めた声で言った。
「濡れてもどうなっても。ただ」
雨の中でもよかった。眠りたかった。後はどうなってもよかった。
「寝るか」
俺はまた呟いた。そのまま雨の中目を閉じる。そのまま眠りに入る。
雨音の中何かが聞こえて来る。それは足音だった。それが誰のものかはわからない。そんなことはもうどうでもよかった。
「俺が全部悪かったんだ。全部」
「ええ。けれど」
最後にその声を聞いた。後は覚えちゃいない。青い雨が俺を濡らしていたがそれが何かに防がれるのを感じながら俺はその雨の中で泥の様に眠りに入った。何かに包まれるのを感じながら。
Blue Rain 完
2007・9・21
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