軍神、燕人、昇竜、そして……
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残らせてみせよう。
隊の者達も解散して行き、練兵場の出口に向かい歩き出そうとした頃に趙雲がゆっくりと近づいて来て俺に声を掛けた。
「数々の無礼な発言、申し訳ない」
すっと小さく頭を下げてきて、顔を上げた時に瞳を覗き込むと先程までの昏い感情が嘘のよう。
そこで試合前の思考に至り、彼女の心を予測して答えに行き着く。
武人の拠って立つモノは自身の力と誇り。そして彼女はこれほどまでにあっさりと己の非を謝罪するような人物。
彼女のような人が他人を貶めてまで示したかったモノは何か。
それは愛紗の誇り。別々の客将という立場であるのに真名を許しあうほど互いを認め合っているからこそ、彼女には俺が、自身の借り物の武に誇りを持たない俺が許せなかったのか。
ああ、これが武人。なら、例え借り物だとしても俺はそうならなければいけない。
「謝らないでほしい。びびってる俺を焚き付けてくれたんだし完全に俺が悪いだろ。こちらこそすまない。三人の誇りを傷つけて」
これからはもっと心を強く持たなければいけないな。
趙雲は頭を下げて紡いだ俺の言葉に、ほう、と感心するように息を漏らし、続けて何かを言おうとしたが、ふいにちょいちょいと俺の上着の裾が引っ張られたのを見てか口を閉ざす。
その方を見やると鈴々がニカッと笑いかけてくる。
「鈴々もありがとな。それとごめん」
「闘ってるときのお兄ちゃんはかっこよかったのだ!」
くしゃくしゃと頭を撫でて礼を言うと気にしてないというように元気な声で応え、にししと手を口に当てて楽しそうに笑う。
しかし、それじゃ普段はかっこわるいってことになるんだが……
「徐晃殿、あなたの武と心に敬意を表し、真名を預けたい」
いきなりの趙雲の発言に思わず目を見開いて彼女を見つめるが、真っ直ぐな視線に射抜かれてすぐに我に返る。
「あなたほどの人から真名を預けて貰えるとは……喜んで、俺の真名は秋斗」
「慎んでお受け致す。私の真名は星と申します。では秋斗殿、次は私と試合でも――」
言いかけるが口を噤み、やれやれというように肩を一つ竦めて彼女は俺の後ろを指さした。
「秋斗殿」
義勇軍の新兵達の振り分けもひとところ落ち着いたのか、真剣な顔をした愛紗がその場には立っていた。
「あなたは強い。これから将として、共によろしくお願いします」
合わせた瞳には俺への期待という強い光が見とめられた。対してすっと手を差し出し、
「こちらこそよろしく頼む」
言うと愛紗がふっと微笑みその手を強く握る。
その手は、決意と信頼を込めた繋がりだった。
その後、星と鈴々と愛紗と訓練をし、次の日は打撲と筋肉痛で歩くのさえ必死だったのはお察し。
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