出会ったのは雛鳥
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ば届くかもしれない。違うことなら勝てるかもしれない。月は触れないが、湖面の月は捕まえられるんだ。考え方なんか無数にある。嫉妬するのは全部試してからでも遅くはないと俺は思う」
私の心に彼の言葉が染み込んでいく。そうか、自分の限界を自分で決めてしまったら終わりだ。
胸の中にポッと小さな火が灯った。煌々と燃えるこの小さな決意の火は、これからもっと大きくしよう。
優しく私の頭を撫でる手は、もういないお父さんのように暖かかった。
†
まだ少ししゃくりあげている鳳統ちゃんのために、すっかり冷めてしまったお茶を淹れなおして手渡す。
ゆっくりと飲んで、ほうと息をつく顔は少しすっきりした感じに見えた。
「す、すみましぇん。いきなり泣き出してしまって」
「いいよ。俺も偉そうなこと言ってすまなかった」
「いえ。その……うれしかったです」
ほにゃっと笑うその表情は先ほどまでの泣き顔とのギャップからか、非現実的な可愛さだった。
本日二度目の天使の笑顔いただきましたー。俺この子一生守るわ。呂布だって倒してやるぜ。
「それであの……その……」
もじもじして余計可愛いぞ。まだ攻撃を続けるというのか。俺の紳士ゲージがマッハなんだが。
沸々と湧き上がるなでなでしたいという衝動をなんとか抑えつつ、彼女から続けられるであろう言葉を待った。
「わたしゅ……あわわ、わ、私の真名、雛里っていいましゅ」
真名……ってこの世界では殺されるレベルで大事なものか。あの胡散臭い腹黒少女に説明された事柄を思い出し、しかしどうしていいか分からずに戸惑ってしまう。
「真名で呼んでください」
真っ赤になりながらギュッと目を瞑ってそう言われた。真剣な声は緊張しているのかわずかにだが震えていた。
「……いいのか?」
俺なんかに、とは言えない。それは多分聞いてはいけないことだから。
「お、お願いしましゅ……」
「……俺の真名は秋斗。受けてくれるか、雛里?」
ならばと思い立ってこちらの真名も差し出す。この世界ではそうしたほうがいいような気がした。
「はい!秋斗さん!」
雛里に太陽のような明るい笑顔が広がったところをみると正解だったようだ。
ほっと胸を撫で下ろして大切なモノを預けてくれたんだという事を自身の心に刻み込む。
それからは他愛のない会話をしばらく続けていたが、結構な時間話し込んでしまい、夕暮れの斜陽に気付き慌て始めた雛里を見送って楽しいお茶会は終わった。
その日俺は初めてこの世界に馴染んだ気がした。
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