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短編集
仮の空想
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はあるとは聞くけれども。
「『そう。君は普通の人間なんだよ。自我の崩壊を止める為に仮想の友達を作る程度にはね。だけれど君は過去の寂しさから自己の美化が苦手なんだ。人間誰しもが感じる無条件の自己への愛が薄いんだ。だからその分を、仮想の僕に投影した。』」
「つまり君が、僕が思う理想の自分なの?」
「『そうではないけど、それに近い。姿がないのもそのせいさ。君は美化された自分を空想できなかった。君は君自身を愛してはいないから自分を元にしたものは認められなかったんだろう。だから僕の形は不確定なんだ』」
「じゃあその性格も」
「『性格もそうだけど、存在そのものが、だよ。寂しさに敏感な君は、他者が寂しくなればすぐに出向いてあげたいと思っている。声をかけられればすぐ返答を返す僕のようにね』」
「そう、か」
 彼は僕の理想なのか。だが、考えてみれば確かにそうだ。寂しがり屋の僕は、独りの心細さを知っている。だから、そんな人を放っておけなくて、今でも養護施設に顔を出しているのだ。そうして自己の主張は最低限に、ただ優しく声をかけてあげられれば、それはなんて−−。
「あれ?」
 僕は必要なのか?
「『必要だよ』」
 言葉に出すより早く、彼は強い口調で言った。
「何故? 君と僕とが逆になればいいんじゃない?」
「『……自己への愛が欠落しているからって、他者への思いやりだけでそんなことを言えるの?』」
「分からない。けどそうすればもっと誰かの寂しさを埋められるんじゃない?」
「『無理だ。言っただろう。現実と理想は異なるんだ。もし変わりに入れ替わったとしても、理想の僕は現実との摺り合わせを経てもこのままではいられない。今の君のようになるさ』」
「……」
 ゆっくりと息を吐く。今の提案は、ある種現実逃避であった。他人の幸せを願うという免罪符を経て、他人との関わりあいを他者に譲り渡すという。
「『冷えてきたね』」
「だね……」
 その後ろめたさからか、会話は弾まない。

                   ◇

 気づけば、次の電車が遠くに見えた。田舎のこの駅からは、周りが田んぼのおかげでずいぶん先まで視界が良かった。
「『これでお別れだね』」
 彼の言わんとする所は分かった。そう、考えればはじめから分かりきったことだったのだ。彼は僕自身にほかならないと。そうして其れを自覚したならば、もうこの関係は続けられなくなると。其処まで僕の心を強くすることだけが、彼が言葉を持った意味なのだから。
「ああ……」
 今まで僕と彼が居たのではない。僕と目線を変えた僕が常に居たのだ。だがそれも珍しいことではない。自己の客観性と現実はズレる。自己の理想像など誰しもが持ち合わせている。僕は偶々、それに言葉を持たせただけにすぎない。
 故に、彼は先ほど思って
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