仮の空想
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見えないし、触れない。けど、それが僕の初めての友人だった。
◇
警笛が鳴る。そうして、僕の前で電車は走りだした。
養護施設の帰り道、いつもより遅く施設を出てしまったせいで、電車にぎりぎり間に合わず、電車を一時間ほど待つことになってしまった。
週に一度、僕はかつていた養護施設の手伝いをしていた。両親を小さい内になくした僕としては、あそこは我が家の様な場所で、バイトでなんとか食いつないでいる今でも、こうして時たま顔をだしている。
がら空きのベンチに腰を下ろす。周りをきょろきょろ見回して、誰もいないことを確認した。予想通り、二十時を回ったホームは閑散としていて、誰の姿も見当たらなかった
「家に着くのは何時頃だろうね」
いつも通り、彼に話しかける。内容に意味などなかった。ただ何かを喋りたかっただけ。けどそんな語りかけにも彼は律儀に返してくれた。
「『二十一時五十分くらいかな』」
繰り返すが、このホームには僕以外には誰も居ない。だけれど彼の声は聞こえた。
「今日は九時から映画を見る予定だったけど、駄目か」
「『そうだね、帰ったらシャワーを浴びてのんびりすればいいと思うよ』」
彼は、俗に言うイマジナリーフレンドだった。空想の友人。小さい頃に両親がなくって、引っ込み思案だった僕が正気を保つ為に作り上げた仮想の友達。それは十八を迎えた今でも僕と共にあった。
「……」
「『何か考え事?』」
「ああ。君のことでね、少し考えていた」
もう僕も子供ではなかった。故に、いつまでも彼がいるという状況はまずいということはわかっていた。
「君はいつまで僕と一緒にいるんだろうね」
「『さぁ。君が僕を必要としなくなるまでだろうね』」
確かにその通りだ。彼は、僕の心が孤独を耐えられなかった結果に生まれたのだから。僕が満たされれば消え失せる。いや違う。出てこなくなるのだ。
「君はそれについてどう思う?」
彼自身と言葉を交わすことはなくなる。それは、彼にとってはいいのだろうか。
「『何が、とは言わないよ。僕はそれでも構わない。僕は消えるわけじゃないからね。君と僕はそもそも同一であるのだし』」
そう、彼は消えるのではない。ともすれば最初から生まれてすらいないのだから。
「未だに理解できていないのが、君の思考だよ。君は僕と同一だと言うけれど、会話が成立する時点で僕と君は同一ではない」
「『そんなに難しく考えることもないよ。結局は同じだよ。ただ君は、色んな人と関わって、色んなことを感じていった。僕はそれとは違っただけで』」
「環境の違い?」
「『違う。同一の思考から生まれた現実と願望さ』」
「願望?」
オウム返しをする。彼は僕の願望? いや、確かに仮想の友達にそのようなこと
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