雪原の死闘
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たが、一人、また一人と歩き去る。
ただ一人、カッセル軍曹だけが近づいてきた。
先ほどまでの鬼の形相は成りを潜め、困ったような表情を浮かべる好々爺のようであった。
「お優しいですな、少尉殿は」
「新しい分隊長を別に貰えるなら、厳しくもなりますよ」
唇を手で拭いながら言葉にすれば、カッセルは穏やかにアレスを見下ろした。
そうですかな。
呟かれた言葉に、アレスは答える事はなかった。
静かに見るアレスの視線に、カッセルはバセットの去った後を見る。
「彼は第七艦隊で上官と仲間を失った。もう五年も前の事です」
「サハロフ中佐の隊ですか」
「御存知なのですか」
「少し縁がありましてね」
息を吐いたアレスを待つように、カッセルは言葉を続けた。
「上からの命令で犠牲になるのは現場の人間。どこにでもあることです。けれど、彼は若い。我々ならば酒を飲んで、忘れられる妥協が彼には出来ない」
「妥協が良い事ではないと思いますがね」
向けられた厳しい視線に、カッセルは肩をすくめて、朗らかに笑った。
「少尉殿は私には厳しいですな」
「ええ。退役までしっかり働いてもらわなければなりませんからね」
手を伸ばして、助けを貰いながら立ち上がる。
朗らかな表情が、一瞬変わった。
「なら、この件は私に任せてもらえますかな」
「最初からそのつもりです。彼を分隊長からおろしたのは、あなたに教えてもらうようにすることが目的でしたからね」
「はは。ならば、退役前に給料分は働きますかな」
アレスの言葉に、カッセルはからからと笑った。
「ところで軍曹」
「ん?」
「髭を剃ったのは何か、事情があってのことですか?」
アレスの問いに、カッセルは渋い顔を浮かべた。
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