雪原の死闘
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「何をしている!」
雪にまみれたバセットが立ち上がると同時に、厳しい叱責が飛んだ。
+ + +
言葉の方に顔を向ければ、そこにはクラナフがいる。
厳しい視線を向けられれば、バセットは握ってた拳をほどいた。
終わりかと。
「訓練です。大佐」
そう息を吐いたバセットの耳に入る言葉は、アレスの声だった。
切った唇を手の甲で拭いながら、アレスは何事もなかったように告げる。
クラナフの眼光がますます厳しくなった。
「誰がそんな許可を出した、マクワイルド少尉」
「雪原での戦闘訓練については、大佐の許可をもらいましたが」
「そこに殴り合いなどの記載はあったかね」
「雪原での戦闘訓練で、なぜ徒手による格闘戦がないと思ったのです」
「小隊長が、分隊長相手に徒手格闘訓練を行ったと?」
「それ以外に何をしているように見えたのですか」
クラナフは元々は現場の一兵卒から、この地位まであがった男だった。
その殺気すらも見せる眼光に対して、しかし、アレスは飄々と答える。
むしろ、バセットの方が息を飲まれてしまっていた。
そんな自分の姿に気づき、バセットは雪原から身体を起こした。
こんな事で借りを作るわけにもいかない。
「これ……」
「いやいや、すみませんな。まだ小隊長も伍長も若く、熱が入り過ぎたようで」
呟きかけた言葉を制止したのは、カッセルであった。
相変わらず飄々とした表情で、穏やかに語る姿に、クラナフは鼻を鳴らした。
「随分と元気が余っているようだな、少尉。だが、怪我をされては困るな」
「これから気をつけます」
「マクワイルド少尉は後で司令官室に来るように」
そう言ってクラナフ大佐は踵を返して、歩きだした。
アレスは空を仰ぐ。
またお説教部屋だと――それは、学生時代で慣れたものではあるが。
血が混じった唾を吐いて、周囲に視線を向ける。
「大佐の言う通り、今日は解散だ。明日からは予定通り、俺が第一分隊の指揮を行う。カッセル軍曹は――」
「マクワイルド少尉」
「ん?」
「貸しのつもりか。だとすれば……」
「バセット伍長!」
カッセルの怒声が、バセットの言葉をかき消した。
振り返って、初めて見る鬼軍曹の表情に、バセットが不愉快気に唇を曲げる。
呟きかけた言葉を飲み込んで、恨めしげにアレスを見れば、自らの装備を手にする。
周囲に視線を向ければ、バセットに対する視線は冷たい。
「勝手にしろ」
言葉とともに立ち去る様子を、面々は黙って見ていた。
その様子に誰も言葉を口にできないでいる。
ただ見送ったアレスが疲れたとばかりに雪の防護壁に腰をおろせば、解散とばかりに手を振る。
しばらく迷っていたようであっ
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