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銀河英雄伝説〜生まれ変わりのアレス〜
雪原の死闘
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 小さく息を吐いて、バセットは踏み込んだ。
 拳は握られていない。
 手を軽く開いた動きだ。
 相手に打撃を与える事を目的にしていない。
 目的は――目か。

 人間の目は弱い。
 強い打撃すらいらず、相手の指がかする程度でも視力を奪われる。
 容赦のない攻撃に対して、アレスは苦笑した。
 それでも、フェーガンよりは遅い。
 そう思い身体を沈ませて、相手の攻撃をかわした。

 即座に腕をとりに行こうとして、バセットの手が横振るわれた。
 耳を衝撃が駆け抜ける。
 寒い中で露出していた耳を、弾かれる事で思わぬ痛みを感じた。
 ちぎり取られたのではとまで一瞬誤解する痛みに、アレスが眉をしかめる。

 その隙をバセットは逃さない。
「本当に容赦がないっ」
 振り上げられたのはバセットの左足だ。
 狙いは急所――金的。

 両腕をクロスさせて、何とか防いだ。
 攻撃は終わらない。
 防いだと同時に首筋に伸びるバセットの手。

「舐めるな」
 それに対して、アレスは防いだ両手で相手の左足を掴んで、力任せに持ちあげた。
 バセットの態勢が崩れる。
 倒れると同時に、繰り出されるの右足。
 顔面に伸びる蹴りに、アレスは左肩を持ちあげる事で対処する。

 アレスの左肩によって、若干の衝撃を緩和されながらも、側頭部に右足が叩きつけられた。
 脳が揺れて意識が一瞬消える。
 それでもアレスは掴んでいた両腕を離さない。

 足首へと両腕を巻きつけると、力を込めてひねる。
 バセットが苦痛に呻いた。
 それも一瞬。バセットによって投げられたのは、雪だ。
 狙い違わず顔にぶつけられて、視界を奪われる。
 緩んだ手からするりと抜け出して、バセットは立ち上がって、距離をとった。

「少しはやるようだな、少尉殿」
「雪玉もたまには役に立つだろう」
「はっ、違いない。どこでそんな技を学んだ?」
「五年も学校で訓練をすれば、何とかなるもんだ」

「勉強か、ご苦労なことだ」
「ああ。随分と苦労したよ。ところで、君はこの五年で何をしてきた?」
「貴様に俺の何がわかるっ!」

 叫び、雪原を走る。
 疾走。
 雪を巻き散らせながら走りだしたバセットに対して、アレスは小さく笑う。
「わかるわけがない。俺は君ではないから――けれど」

 呟いて、拳を握りしめた。
「結果を見ればわかるぞ――君は分隊長にすら、ふさわしくない」
 アレスは避けない。
 バセットの拳がアレスに届くと同時、アレスの拳もまたバセットに叩きつけられた。

 激突音。
 一瞬の硬直の後に、吹き飛ぶのも同時。
 カウンターのように直撃したバセットは後方に吹き飛べば、アレスはかろうじて倒れる事を免れた。

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