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第一章 〜囚われの少女〜
隠された部屋
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 震える手と強い意志で握られたのは、恐らく護身用の短剣。その切っ先は自らの方に向けられている。
「死すべきは私の方……」
 自分ではなく、赤の他人に呪いを押し付ける様な。そんな自分の心さえもが憎かった。

――ここ数日間、ずっと夢を見続けた。目の前から何もかも消え、全てが真っ暗な闇に飲み込まれていく。
 そして、あの呪いの面に取り囲まれる。何度となく、怨念のこもった言葉を浴びせられる。
『お前が悪いのだ』
『お前は偽物だ』
『お前は呪われた娘だ』
『その仮面を剥ぎ取ってやる』
『お前は偽りの姫だ』
 そうして床板が外れ、底のない闇へと引きずり込まれる。
 最初はただの悪夢だと思った。だが何度も見るうちに、ただの夢に過ぎないと思う精神は、少しずつ削がれていった。
 真実はいつも手の届かない、自分の知らない場所に遠ざけられる。その真実を捉えることさえ許されず、ただ、王宮という籠に囚われたままだった。
 自分の素性というものが、実は単なる刷り込みであるかもしれない。そう疑いながら何もすることが出来なかった。
――もう、すでに限界は通り過ぎただろう。眠ることさえも恐ろしい。自分の事も、何もかもが信じられない。

「姫様」
 扉の向こうから少女に呼ばれ、体がびくっと反応する。反射的に察知したのは、『姫』という職を全うしなければならないという現実。
 何事もなかったのだ、どこも私はおかしくない。平静をよそわなければ。
――じわり、額には汗が滲む。
「お加減でも悪いのですか?」
 侍女はさらに問いかけてきたが、なかなか言葉を返せなかった。
 周りの者に迷惑や心配をかける訳にはいかない。
 なんとか返事をしようとも、震えて声が出ない。ひとまず落ち着こうと息を深く吸い込むが、意味深な言葉を耳にしてはっとする。
「ご自身で確かめに行かれますか? レナ姫様――」
 思わず息をのんだ。
 慌てて姫は扉に近づき、外開きに開けた扉のすき間から、頭をのぞかせる。
「何か……知ってるの?」
 疑い深く問う。
「ご案内いたします」
 その冷静な答えへの返事は、外出用のフードを被り、再び扉から顔をのぞかせることだった。


――


 そこには少し湿ったような、暗い空気が漂う。
 まるで光は皆無だった。圧迫感の漂う場所に、ふわりと灯がともる。そこに現れたのは二つの人影。
 お互いは、一言の会話を交わす様子もない。前にはランプを持った者。その後ろに、フードをかぶった人物が続く。
 前者は至って冷静といった様子だが、後者は先の見えない暗闇に怯えていた。
 足音をひそめ、聞き耳をたて、狭い通路を歩く。
 ランプの火に照らされた通路の床や壁、天井までもが石で出来ており、それが延々と続くような殺風景な道だった。
 コツ
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