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空を駆ける姫御子
第二十六話 〜夜に舞う喋 前編【暁 Ver】
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ない人間がいると考えたばかりではないか。

 あたしは、発条(ばね)が爆けた人形のようにベッドから跳ね起きる。デスクへと走り寄り椅子へ座るのも、もどかしく端末のスクリーンを立ち上げた。ギンガさんから転送された捜査資料をもう一度確認する──── 気が付かなければ良かった。あたしは、そのまま糸が切れたように椅子へ座り込んだ。





 深夜。あたしとスバルは、アスナの部屋にいた。だが、いつもの和気藹々とした雰囲気は微塵もなく、どこか張り詰めた空気が然程広くない部屋を満たしていた。スバルは、あたしが禄に説明もせずに連れてきてしまった為に酷く戸惑っている。アスナは、部屋の中央で案山子のように棒立ちになったまま、あたしを見つめていた。

「アスナに少し聞きたいことがあるの。……いい?」

 アスナは、何も言わずこくりと頷く。

「アスナが、有休を取得した日。……どこに行ってたの?」

「……かいものと、さんぽ」

「あんな遅い時間に?」

 アスナが、有休を取得した日は──── 一人目の犠牲者が発見された前日だった。アスナは何も答えない。

「あたし達が部隊長室で説明を受けている時に言った言葉、憶えてる? 「……おなじが」。アスナは、なんで……二人の犠牲者の口に入れられている蛾が、同じ種類だと判断したの?」

「ティア?」

 あたしは、スバルの問い掛けには何も答えず、スクリーンに表示されている二枚の現場映像を見せる。

「一人目の犠牲者。蛾の頭部と触角の一部しか見えていない。対して二人目の犠牲者は、体の一部と羽の模様まで確認出来る……あたしも気になったから蛾の種類に関して調べてみたわ。正直に言えば、頭部だけじゃ見分けがつかない種類がたくさんいた。……ねぇ、アスナ? どうして、あなたは……両方共、同じ種類だと判断したの?」

「ねぇ……さっきから何言ってるの、ティア?」

 アスナは……何も答えない。部屋へ入ってから一度も逸されることのない静謐な瞳が──── あたしを変わらず見つめていた。体が震える。あたしは──── 声までも震えてしまわないように。拳を握りしめた。

「それは……あなたが、『最初』から蛾の種類を知っていたから。あなたが蛾を」

 そこまで口にしたところでスバルの怒鳴り声が響き渡る。スバルは説明を求めるようにあたしを睨みつけていた。だけど今はこっちが先だ。アスナが現場写真だけでは特定が不可能な蛾の種類を同じだと言った理由。そう、そう考えた方が自然なのだ。アスナは()()から知っていた。

 被害者二人の口へ押し込まれている蛾の種類を知っていたんだ、最初から。それはいったい何を意味するのか。あたし達の息遣いしか聞こえない部屋に──── アスナの何かを諦めたかのよう
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