第二十六話 〜夜に舞う喋 前編【暁 Ver】
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バックする。薄暗い路地裏。物言わぬ死体。蝶のように舞う花弁。墓標のように突き立てられた──── ナイフ。頭を軽く振る。
「珍しい種類なの? ギン姉」
「いえ……街中でもよく見かける種類だったわ」
「そっかぁ……それじゃ、蛾の種類から追うのは無理だね」
スバルの言うとおり、その線から追うのは無理だろう。だが、その時あたしが一番気になったのは事件のことではなく、隣にいるアスナの様子だった。スバルはアスナの前にいるから気が付かなかっただろう。現場映像を見た時、アスナの瞳に宿った感情は──── 困惑だった。
それから暫く経ったある日。ギンガさんの捜査を手伝うことに決まったはいいが、事件はまるで進展を見せなかった。あたし達も出来る限りの事はしたが、目撃証言もなく手掛かりも無い状態では八方ふさがりだったのだ。
「アスナの様子?」
スバルはそう言いながら、例の如く山盛りになっているパスタを頬張る。
「どことなく落ち着かないような気がするんだけど……気の所為かしら」
「……気の所為じゃないと思う。なんて言うのかな……悪戯をした子供が、親にばれないかそわそわしている感じ」
「いつから気がついた?」
「うぅん……そう言われると」
スバルは困ったように、フォークの先でパスタのミートボールを転がした。
「あ。ほら、一週間くらい前にアスナが有休取ったことあるでしょ。あの頃からじゃないかなぁ」
「結構、遅くに帰ってきてアイナさんに怒られた時だっけ」
「そうそう」
考えてみれば怒られてばっかりね、あの娘。今に始まったことじゃないけど。
「気になる?」
「ちょっと、ね」
あたしは、ダージリンに口をつけながら斜め向かいのテーブルにいるアスナを盗み見る。アスナは、ピラフに入っているピーマンを避ける作業に忙しいらしく、あたしの視線には気づかない。そんなアスナを見ていたヴィヴィオが、習うようにせっせとピーマンを避けている。そして、二人を見ていたなのはさんが、生のピーマンを齧ったような顔をしていた。
食事を終え自室へ帰ったあたしは、ベッドへと身を投げ出す。考えなければいけないことが、あるような気がする。だが、あたしの脳は駄々をこねる子供のように言うことを聞いてくれない。それは──── なぜ? 考える。考える。考える。考える。考えるな。考える。考える────
──── ……おなじが
思考を上手く言葉に出来無い人間がいる。アスナは、その典型だ。つまり。思考そのものは、あたしたちと大差ないのだ。「同じ種類の蛾」……なぜ、それを口にしたんだろう。普通は「なぜ、こんな真似を」だ。なぜ、蛾の種類に言及したのだろう──── 待て。思考を上手く言葉に出来
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